新刊紹介 | 編著、翻訳など | ルイ・サラ-モランス(著)『ソドム――法哲学への銘』 |
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柿並良佑ほか(訳)
ルイ・サラ-モランス(著)『ソドム――法哲学への銘』
月曜社、2010年5月
「法とは何か」――これが法哲学の原理的な問いであるとするなら、「法哲学への銘」という副題を持つ本書が提起するのは、「人間が作り出したはずの法が、何故、人間を束縛し人間に暴力をふるうのか、そしてその暴力を正当化するものは何なのか」という問いである。聖書「創世記」の中で焼き尽くされた街の名を冠する本書『ソドム』は、法の暴力と神学・哲学を骨子とする西欧思想との結託を暴きだそうとする書物である。
ソドムを焼き尽くした炎を範例として紡ぎ出された「異端審問」の言説のうちに、神学的理性が人間に対してふるう暴力の典型を認める著者は、我々の世界――その地理と歴史――にくまなくいきわたる〈法〉の根本的に神学的な構造の探索に乗り出す。そして、この構造を支える哲学的体系の全体性や統一性を舌鋒鋭く追及しつつ、法の秩序と相容れず追放された「群集(レギオン)」、「らい病人」、「黒人」といった法‐外な者たちの織り成す「もう一つの全体性」、すなわち複数性の思考を、壮大なドラマとして描き出していく。
著者ルイ・サラ‐モランスは、中世哲学、とりわけ「結合術」の先駆者ライムンドゥス・ルルスの研究から出発した哲学者である。ルルスの研究を通じて神の三位一体のうちに神学には収まりきらぬ対話と複数性の思想を見出した後、異端審問・奴隷制・植民地主義といった問題へ研究対象を広げていく。著者の仕事の根底に流れるのは法がふるう「暴力」への批判と虐げられた者たちへの愛であり、その思索が結実したのが『ソドム』である。(柿並良佑)
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