新刊紹介 単著 Tadashi Uchino "Crucible Bodies: Postwar Japanese Performance from Brecht to the New Millennium"

Tadashi Uchino "Crucible Bodies: Postwar Japanese Performance from Brecht to the New Millennium"
Seagull Books, 2009

『るつぼの身体――ブレヒトから新ミレニアムまでの戦後日本のパフォーマンス』と題された本書は、1930年代の日本におけるブレヒトの受容から、9/11以後のコドモ身体の登場に至るまでの日本の上演系芸術(パフォーミング・アーツ)の展開を、「パフォーマンス的身体(bodies-in-performance)」に注目しながら論じたものである。序文では、アメリカの劇作家アーサー・ミラーの研究から始めた著者が(「るつぼ」とはミラーの作品名でもある)、アメリカのパフォーマンス研究と出会い、日本の比較的新しい作品に関心を主に向けつつ、批評と研究を手がけるようになった経緯が、日本の制度や環境の変化と並行的に論じられている。8つの章と3つの幕間に分かれた本論では、ダムタイプ、指輪ホテル、チェルフィッチュ、遊園地再生事業団(宮沢章夫)など、主として90年代以降の作品を議論している。その際、著者は、パフォーマンス研究の方法論よりも、宮台真司、村上隆、桜井圭介といった同時代の日本の言説を参照している。それは、日本の演劇史における西洋化(近代化)の問題を考察してきた著者による自覚的な選択であると考えてよいだろう。実際、著者は随所で、グローバリゼーションやナショナリズムとの関連で「日本的なもの」を考察している。本書の表紙を飾る村上隆の《HIROPON》(1997年)が、日本の現代文化の欧米での評価をめぐる重要な問題を提起したのと同様に、本書もまた、日本の現代演劇の研究者だけでなく、グローバルな時代における日本の文化状況に関心を持つ者にも多くの示唆を与える議論を提示している。(加治屋健司)