新刊紹介 単著 友常勉『脱構成的叛乱――吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー』

友常勉『脱構成的叛乱――吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー』
以文社、2010年10月

友常勉が表題として掲げる概念「脱構成的(de+stituent)」は、だれにとって必要であるか。マイノリティにとってである。マイノリティを論じることには原理的な困難がある。それを学問的対象にすることによって、あるいは権力主体として名付けることによって、マイノリティはその多様性と潜勢力を失うリスクに直面する。友常はその少し手前、「生が制度化と非制度化のあいだで宙吊りになる瞬間」にこそ照準する。

「脱構成的」なるものの理論は、まずはじめに吉本のテキストとの執拗な対決によって練り上げられる。次に中上のテキストの神話的想像力とともに地理・歴史的な圧倒的広がりを与えられ、そして最終的にジャ・ジャンクーのキャメラと共振して、身体的な「歓喜」へと突き抜ける。

「脱構成的」な「叛乱」を論じるためには、おそらく論述自体が「脱構成的」でなければならない。「被差別部落」、「中国民衆」、「農民」、「移民」(と呼ばれる人々)をめぐる友常の論述は、慎重に慎重を重ね、マイノリティたちの潜勢力を奪う論理的陥穽をくぐり抜けてゆく。読み下しづらくはあるが、その強かな「農民的」道行きを辿ることは読者に必ずや身体的歓びを与えてくれるはずである。(三浦哲哉)