新刊紹介 | 単著 | 谷昌親『ロジェ・ジルベール=ルコント――虚無へ誘う風』 |
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谷昌親『ロジェ・ジルベール=ルコント――虚無へ誘う風』
水声社、2010年7月
誰もが知る代表的シュルレアリストではなくシュルレアリスムの周縁にいた人物たちに光をあてることでその射程の広さを浮かび上がらせる叢書「シュルレアリスムの25時」の4巻目となる本書は、「シュルレアリスム宣言」をパリではなく地方都市ランスで受け取ることになる線の細い早熟な中学生の肖像を丹念に描き出すところから始まる。才気煥発な優等生だった美少年ロジェは、詩作にのめり込むようになると同時に過激な悪戯に手を出し、東洋思想に傾倒し、死の不安と魅惑に取り憑かれて危険な実験を繰り返す。ついには同じ方向性をもった同級生たちと「誕生以前の閃光」をキーワードに〈サンプリスト〉なる秘密結社めいたグループを結成する。リセ卒業後は鬱屈した数年を過ごすが、パリに出ることが叶うや、新たなメンバーを加えたサンプリストたちと雑誌の刊行に向けて動き出す。こうして1928年に創刊されるのが、『シュルレアリスム革命』誌の向こうを張る『大いなる賭け』である。そこでは、「誕生以前」、「死点」、「自己破壊」といった思春期以来のジルベール=ルコントのテーマが花開くことになるだろう。
著者は、カイヨワからアダモフまで多様な人物による証言や数々の書簡、サンプリスト時代の同人誌や『大いなる賭け』誌といったさまざまな資料を縦横に駆使し、また何より重要なことに、随所にそのときどきのジルベール=ルコントの詩を織り込んで、36年の風のような生を浮き彫りにしている。(郷原佳以)
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