第9回大会報告 ライブ&アーティスト・トーク:
SEIGEN ONO Plus 2014 featuring NAO TAKEUCHI and JYOJI SAWADA

ライブ&アーティスト・トーク:
SEIGEN ONO Plus 2014 featuring NAO TAKEUCHI and JYOJI SAWADA
報告:久保田翠

2014年7月5日(土) 16:00-18:00
東京大学駒場キャンパス18号館ホール

[ライブ]
SEIGEN ONO Plus 2014 featuring NAO TAKEUCHI and JYOJI SAWADA
 オノ セイゲン(チャランゴ、ギター)
 竹内 直(バスクラリネット)
 沢田 穣治(コントラバス)

[アーティスト・トーク]
オノ セイゲン(聞き手 福田 貴成)

2014年7月5日(土)、学会オープニングを飾ったシンポジウム「接触の表象文化論──直接性の表象とモダニティ」。議論の齎した熱も冷めやらぬ中、オノ セイゲン(※1)・竹内直・沢田穣治という大変豪華な面々を招いてのライブ及びアーティスト・トークが、東京大学駒場キャンパス18号館ホールで開催された。

鳥の囀る音源(※2)が美しく遠ざかる中、オノ氏のつま弾くチャランゴの音色が響き出す。驚くべきはそのサウンドのクリアさ。楽器の傍らにはマイクが設置され、会場内あちらこちらのスピーカーから音が流れているのは確かなのだが、所謂「PAを通しました」感のない瑞々しい響きが会場内に響き渡る。原音がそのままに空間に放射されるようかのように、恰も手で触れられるかのように、聴き手の眼前へと現れる。後のアーティスト・トークで詳細が明らかになったのだが、この日のスピーカーには富士通テン(シンポジウム協賛)のタイムドメイン・スピーカー「イクリプス」(※3)が使用され、アーティスト及び関係者によって当日入念に音響チェックをされた後、一台一台それぞれに異なる最適な角度でもって配置されたとのこと。これまでのマルチウェイ・スピーカーではどうしても回避できなかった音の鈍りや遅れをカットし、演奏した音をその発された瞬間のままに届ける、というコンセプトのイクリプスは、新鮮な音が充満する空間を可能にした。

オノ氏のチャランゴ・ソロはその都度G音やD音などを基底としながら、緩やかにシーンを繋いでゆく。シンプルな音構造が、音響そのものの新鮮な現れを際立たせる。個々の音に弛緩する隙は全く無く、かといって聴き手を拒絶するような厳しさもない。リラックスしていながらも心地よく流れてゆく。音楽は様々に変化しつつ、清涼な時間を終える。

その後チャランゴはギターへと持ち替えられ、バス・クラリネット(竹内直)及びベース(沢田穣治)が加わる。瞑想的なものから比較的リズミカルなものまで、演奏は刻々変化してゆくが、常に発される音そのものに過不足がない。彼らがこれまで積み重ねてきたユニットとしての経験値以上に、「自分の音及び互いの音をよく聴きあう」技術が、大変高度なレベルで実現されていたように思われる。 弦を弾く音、管楽器の量感あるメロディー音や咆哮、ベース音の粒立ち等、様々な質感を持った音たちが絶妙に絡み合っていく姿に、会場中が魅了された。 また時折感度よくマイクが拾ってしまうちょっとした「ノイズ」──衣擦れの音、コードチェンジの際にフレットを擦る音など──が、確かな存在感を持つ音たちをさらに引き立てていた。これらの「ノイズ」は決して多くはなかったのだが、却って音の触感を、演奏者の身体性を引き立てていたとも言えよう。

音の旅に身をくゆらした後は、オノ氏を迎えてのアーティスト・トークへと進む。今大会シンポジウムのパネリストでもある福田貴成氏の当意即妙な進行のもと、話題は前述の「イクリプス」からオノ氏のこれまでの作品、氏の音楽観や技術観、はたまた音楽ビジネスの裏側に至るまで実に多岐に及んだ。途中オノ氏が参加者の一部をその場に立たせ、「答えるまで座ってはだめ」とした上で質問を投げかけるなど、即興の「セイゲン音楽学校」も開催された。アーティストとして、またエンジニアとして数々の現場に関わってきたオノ氏の言葉は、経験と博学に支えられた大変魅力的なもの。「音が運ぶものは感情」「仕事を一旦振られたら、とりあえずは「はい、わかりました」と言う」「今日の演奏の間も会場の反応を実は観察していて。途中で眠たくなるかな、という部分があったんだけれど…」「本番で一番良い状態を持ってくるためには、リハーサルをし過ぎてはいけない」等々、数々の印象深い発言を聞くことができた。

シンポジウムのテーマと相俟ってか、スピーカーという媒体の存在感を感じさせないあまりにクリアな音響は、すぐそこに手を伸ばせば触れることができるのではないかという錯覚すら齎してくれた。「一度虚空へと放たれたら二度と取り戻すことができない」(E・ドルフィー)音の姿は今後どのように変貌してゆくのだろうか。知的・五感的刺激に満ち溢れたイベントであった。

久保田翠(神戸女学院大学)

[脚注]

※1 オノ セイゲン氏プロフィール http://www.saidera.co.jp/seigenono/ono2.html

※2 この音源は、オノ氏自身が南米で録音したアマゾンの夜明けのフィールドレコーディング。
参考URL: Amazon Forest Morning (96kHz/24bit 60分)/ Seigen Ono http://www.e-onkyo.com/music/album/sdsd10093/

※3 イクリプス(富士通テン株式会社) http://www.eclipse-td.com