新刊紹介 | 編著/共著 | 『憑依する過去 アジア系アメリカ文学におけるトラウマ・記憶・再生』 |
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中垣恒太郎(共編)
小林富久子(監修)
『憑依する過去 アジア系アメリカ文学におけるトラウマ・記憶・再生』
金星堂、2014年3月
アメリカ文学文化の中でも、アジア系アメリカ文学研究は近年、特に発展を遂げている研究領域であり、一口に「アジア系」と言っても、日系、中国系、韓国系に加え、フィリピン系、ベトナム系など背景となる歴史や現在の状況には大きな違いがある。かつてその多くが第二の定点を求めて米国にやってきていた旧アジア系移民と、現在の多様極まりないアジア系新移民たちとを同一線上で語るのは困難な状況にあり、「トランスナショナル文学」や「世界文学」の観点から捉え直す動きもある。こうした「アジア系アメリカ文学」というカテゴリー自体を再検討しようとする動向をも踏まえながら、アジア系アメリカ文学作品を素材に大衆文化研究なども交えつつ、「トラウマ」という観点をキーワードに一巻本の形で多角的に掘り下げようとする試みを持つ本論文集は、「戦争」、「人種」、「ジェンダー・セクシュアリティ」、「移動・越境」の4つの主要テーマでパートを構成し、21論文を収録した。多くが出身地での戦争や紛争から逃れるべく故郷を離れ、苦難を経た後、ようやく落ち着いた移住先の米国でも様々な差別や偏見に悩まされるという社会的・歴史的偏見をもつアジア系アメリカ人の作家たちの作品の中に、「トラウマ」のモチーフが連綿と継承されていることを確認することができる。アジア系アメリカ文学研究が持つ豊饒さの源泉を本論文集から存分に見出すことができるのではないか。(中垣恒太郎)
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