新刊紹介 | 編著/共著 | 『越境の映画史』 |
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堀潤之(共編著)、竹峰義和(分担執筆)
『越境の映画史』
関西大学出版部、2014年3月
本書は映画作品の越境とそれが及ぼす影響を探った第1部「映画は越境する」と、映画人の越境的な活動に注目した第2部「越境する映画人たち」からなる。
第1部に収められているのは、文豪トルストイの晩年の小説『復活』(1899)の国境を越えた伝播とその歌や音楽との関わりをたどる西村正男氏(中国文学・中国メディア文化史)の論文、フランスの喜劇王マックス・ランデーの帝政ロシアと日本への伝播の帰結をたどる大傍正規氏(映画学)の論文、そしてハロルド・ロイドの『危険大歓迎』(1929)をはじめとして、当時の中国で「中国侮辱映画」として大がかりな非難に曝された一群の映画作品を対象に、その背後に潜む複雑な折衝のポリティクスを浮き彫りにする菅原慶乃氏(中国語圏映画史)の論文である。
第2部は、文化的に混淆した地域であるマレー半島で作られた中国語字幕によるサイレント映画『新客』(1926)に焦点を当て、その製作のコンテクストを掘り下げた韓燕麗氏(中国語圏映画)の論文、ナチス時代にヒトラーに目をかけられていた俳優・監督ルイス・トレンカーのアメリカ体験を読解する竹峰義和氏(ドイツ思想史・映像文化論)の論文、そしてクリス・マルケルが1950年代後半から60年代前半にかけて──つまり「政治」の季節以前に──行った東アジア(中国、北朝鮮、日本)への旅の詳細と、その成果である作品群を分析した堀潤之(映画研究・表象文化論)の論文からなる。)
むろん、以上の6つの論考だけで映画史の越境の事例を網羅できるはずはなく、また「越境」というキーワードに対して統一的な見解を打ち出しているわけでもないのだが、ヨーロッパ(フランス、ドイツ、帝政ロシア)、アジア(日本、上海、香港、マレー半島)、そしてアメリカに関わる、洋の東西にまたがる映画史の興味深いケース・スタディをかなり掘り下げたかたちで提供することはできたのではないかと思う。(堀潤之)