新刊紹介 編著/共著 『変身の形態学 マンテーニャからプッサンへ(イメージの探検学第5巻)』

喜多村明里(ほか共著)
金山弘昌(責任編集)
『変身の形態学 マンテーニャからプッサンへ(イメージの探検学第5巻)』
ありな書房、2014年5月

本書は、古代ローマのオウィディウス『変身物語』が一六世紀初頭から一七世紀にかけて頻繁に美術の主題として扱われたことに着眼し、〈変身〉に関わる注目すべき作例を詳論しながら、〈変身〉というテーマそれ自体が西洋美術とその精神文化の深奥にもたらしたものを探る、という試みである。

マンテーニャの絵画にみる異形の「美徳の女神」と怪物的な悪徳たちの姿は、空想によるキマイラ的な図像であるとはいえ、不定形の自然が繰り返す生成と変容、変身の所産として描かれた。パルミジャニーノによるロッカ・サンヴィターレの⦅カメリーノ装飾⦆は、女神ディアナと鹿に変身させられる青年アクタイオンの物語を主題とするが、新婚夫妻のための装飾として中世以来の主題「愛の泉」をも織り込むことで、愛による破滅と再生、自然と人工、あるいは絵画と彫刻 のパラゴーネをも喚起する企てを展開する。また、建築家・彫刻家ブオンタレンティがミケランジェロの未完成作品を活用してフィレンツェのボーボリ庭園に設けた《グロッタ・グランデ》では、『変身物語』にみるデウカリオンによる人類再創造の物語と同様に、不定形の石や岩を模した「洞窟」の壁面から動物や人体がたちあらわれるが、それらはいわばデュナミス(可能態)としての素材と、エネルゲイア(現実態)としての芸術家の制作行為という、一六世紀におけるアリストテレス風の芸術創造の理論と呼応するものでもあった。

ドッソ・ドッシが描く魔女は《キルケ》と通称されるが、美の魅惑と〈変身〉の魔術による破滅、そして救済の予感に満ち、詩人アリオストがうたう善なる魔女メリッサや邪悪な魔女アルチーナを想起させる両義性を示す。〈変身〉の魔法をつかさどる魔女が、画家の絵筆により描き変えられ、イメージの変容を遂げるとすれば、〈変身〉すなわちメタモルフォシスの術とその展開は、自然宇宙の術であり摂理でありながらも、画家をはじめとする芸術家たちがつかさどるべき術となるだろう。プッサン作《フローラの王国》を満たす数々の〈変身〉の物語と無数の花々の色彩は、メタモルフォシスの術としての〈絵画芸術〉の寓意そのも のであったのではなかろうか。

視覚表象における〈変身〉は、いわば自然的な自己展開をはらんで、視覚表象それ自体の〈変身〉をも導きだす。豊かな資料考証に基づきながら美術における〈変身〉を再考し、美術それ自体のメタモルフォシスの奥義をも探るという点で、本書は最新気鋭のセンスと興味深い指摘に満ちている。(喜多村明里)

喜多村明里(ほか共著)金山弘昌(責任編集)『変身の形態学 マンテーニャからプッサンへ(イメージの探検学第5巻)』