新刊紹介 編著/共著 『1985/写真がアートになったとき』

大久保遼・冨山由紀子(分担執筆)
粟生田弓、小林杏(編)
『1985/写真がアートになったとき』
青弓社、2014年6月

いつからだろう、写真が「美術品」と見なされるようになったのは。今では当たり前のように美術館で写真を見ることができるけれど、かつての日本ではそうではなかった。写真作品が発表される場は、主に雑誌や写真集といった印刷媒体であり、プリントとしての写真はあくまで「印刷原稿」に過ぎなかった。

そうした状況に変化が訪れたのはいつ頃だろうか? また、そこから現在への流れのなかで、写真のあり方はどう変わってきたのだろうか?──こうした問いを考える上で重要なポイントの一つが、1985年に期間限定で創設された、日本初の(しかも民営の)写真専門美術館、「つくば写真美術館」だ。

本書の中心をなすのは、この美術館の企画メンバーに集まって頂いて開催したシンポジウムでのやりとりと、その後に改めて行ったインタビューである。さまざまな立場の若者が集まり、いくつもの偶然や個々の思いを反映させて、一つの空間を創り上げていった軌跡。そして、彼らがその後に選んだ、それぞれに異なる写真との関わり方。立体的に交差する証言の数々は、80年代から現在までの写真をめぐる状況の変容を、いきいきと具体的に、多面的に描きだすと共に、そのあとの世代への厳しい警鐘と励ましを含むものともなっている。

その声をどう受けとり、どう生かしていくのか。写真のこれまでとこれからに興味のある方に、ぜひ手にとって頂ければと思う。(冨山由紀子)

大久保遼・冨山由紀子(分担執筆)粟生田弓、小林杏(編)『1985/写真がアートになったとき』