新刊紹介 単著 『うたのしくみ』

細馬宏通(著)
『うたのしくみ』
ぴあ、2014年4月

著者はこれまですでに、近代視聴覚メディア史の領域で、いくつもの注目すべき仕事を発表してきた。おそらく、音楽をまとめて論じた著作としては、これが最初のものということになるだろう。

本書は、ジョアン・ジルベルト「サンバがサンバであるからには」、岡村靖幸「犬と太陽」、カルメン・ミランダ「チャタヌガ・チューチュー」などの20曲をめぐる個別的な考察に、時評やコラムなどを加えた構成となっている。対象は、ざっくり、20世紀のポピュラー音楽であるといってよい。

タイトルは『うたのしくみ』である。しかし、ここで「しくみ」とは、たとえば楽理の考究によってあきらかになるのではない。詩句の解釈によって立ち上がってくるのでもない。すでに産業化した音楽という観点から、その社会的なダイナミズムとやらに注目すれば事たりるというのではなおさらない。

うたというのは、うたう/きく、あるいはうたわれる/きかれるという具体的な経験のなかにあり、しかもそこには、カラダのざわめきやココロのどよめきが、あるいは「情動」の揺らぎとでもいうべきものが、不意に喚起されるポイントがある──うたがもっているこのような機微のありようを、本書は「しくみ」と名づけている。

だとすれば、そんな「うたのしくみ」をコトバにすることは、じつはとても難しい。それは「いま・ここ」の直接性と切っても切れない関係にあるからだ(もっともこれは音楽にかぎらないけれど)。そういう意味でも、本書では、音楽を論じる視点と文体の両方が、同時に試されようとしているかのようである。(竹内孝宏)

細馬宏通(著)『うたのしくみ』