新刊紹介 単著 『「平成」論』

鈴木洋仁(著)
『「平成」論』
青弓社、2014年4月

問いのありかは明快だ。「平成」という時間的な区切りをめぐって、どういった言説の規則が機能した/しているのか。アプローチも同様に明快だ。経済、歴史、文学、ニュース、批評といったそれぞれの領域での言説の挙動を検証していく。そこから見いだされるのは、「平成」という元号をめぐって、特定の内実に着地することなく際限なく言説が生み出されていく言説の自己増殖である。内実がないにもかかわらず、あるいはそれゆえに不毛な言説を呼び集めつづける、そのような「平成」の姿が浮かび上がってくる。 

しかし本書を理解する上でもっとも重要であるのは、その分析の手つきであろう。というのもその手つきそのものが、本書で「平成」と呼ばれているものの内実を体現するものであるからだ。本書を一読して目に付くのは、「~~はまさに平成的ではないだろうか」という結文の氾濫である。「平成」について論じるテクストが、「~~は平成的である」という形式を取るというトートロジーに著者は自覚的であるはずだ。なぜなら、内実を欠いた「平成」という核をめぐってのトートロジックな言説の循環こそが、著者が描き出そうとする「平成的」な言説編成のあり方に他ならないからだ。

言説の循環パフォーマンスを通して、まさにそのような循環によって成立しているとされる「平成」を描き出すというこの試みは、たしかに危険である。しかしその危険がはらむ難所を注意深く乗り越えていくことができれば、そこには紛れもなく独自の認識利得が生じる。この危険な賭けの結果については、各自で確認して欲しい。(谷島貫太)

鈴木洋仁(著)『「平成」論』