新刊紹介

住友 文彦ほか(監修)
川俣正『通路』
美術出版社、2008年02月

私たちが表現者たちの特異な考えに触れる機会として展覧会という形式はかなり浸透しているものだが、そこからこぼれ落ちてしまうものもまた多い。これは2008年2月から4月まで東京都現代美術館で実施された川俣正の個展のために刊行された書籍でありながら、展覧会図録というよりも「コンセプトブック」という位置づけをされ、多くの写真やスケッチ、対談の記録、そして30年に渡るプロジェクトの記録、関連文献の情報が掲載されている。過去のプロジェクトの記録写真や企画案のためのスケッチ、川俣本人や[通路]プロジェクト参加者が撮影したスナップ写真が入り混じり、そこにインタビューや関連文献などから引用された言葉が散りばめられている。木材を流れるように組み上げ都市の風景に介入する初期の仕事から、場所や歴史、そして最近の教育や医療などの制度に関わる仕事に至るまでの歩みを、「通路」という言葉を通して考えてみるための作業ノートとも言える。始まりも終わりもない「通路」としてのプロジェクトは、限定された空間を持つ展覧会を大きくはみ出る。そして、アーティストの思考は印刷物の外側にも蛇行するようにして広がっていく。(住友文彦)