新刊紹介 |
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森 貴史
『文化共生学ハンドブック』
関西大学出版部、2008年03月
関西大学文学部に新らしく加わった「専修」のひとつである「文化共生」からの、いわば呼びかけの書である。新学科が社会から要請される「学の見取り図の提示」にどのように応ええたか、関心を抱いて読んだ。
「共生」という、必ずしもバリューフリーでない言葉を選んだところからも、めざす方向性は窺える。すわなち、ポストコロニアル研究、ジェンダー研究、環境論などから得られたリベラルな視座によって、旧来の文化諸学を織り直すこと。とはいえ、ドイツ系の二人の先生の共著なので、具体的内容は、ヨーロッパ民衆誌、比較宗教論、比較文化(文明)論などが中心となる。ただ「サブ・カルチャーを評価する」という題の章もあり、「カルスタ」等の動きについても、バランスよく触れられている。
近代列強諸国の語学文学哲学を「しつける」大義名分のもと、いまだ全体的には「近代の長風呂」が続けている日本の大学文学部ではあるが、この種の「生存への飛翔」の試みもまた日常の風景だ。「表象文化論」も同じ動きの拠点の一つ。であるとすれば、本学会において、全国の会員による「比較脱文学部論」が、もっともっと盛り上がってよい。(佐藤良明)
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