トピックス 3

ジル・クレマン連続講演会
Gilles Clément, un jardinier français au Japon

「都市のビオロジー」« La biologie urbaine »
2015年2月21日 日仏会館1階ホール
コメンテーター:山内朋樹(関西大学、庭師)
司会:シルヴィ・ブロッソ(早稲田大学)

「地球という庭」« La terre comme un jardin »
2015年2月23日 総合地球環境学研究所(RIHN)講演室
コメンテーター:篠原徹(滋賀県立琵琶湖博物館館長)、松村伸(RIHN教授)
司会:寺田匡宏(RIHN 特任准教授)、エマニュエル・マレス(RIHN研究支援員)

「庭のかたちが生まれるとき」« Quand le jardin prend forme »
2015年2月27日 アンスティチュ・フランセ関西-京都稲畑ホール
コメンテーター:田瀬理夫(プランタゴ代表)
司会:山内朋樹

主催:総合地球環境学研究所
共催:みすず書房、日仏会館(21日)、アンスティチュ・フランセ関西-京都(27日)

2015年2月、『動いている庭――谷の庭から惑星という庭へ』(山内朋樹訳、みすず書房)の翻訳刊行にあわせて、フランスの庭師-修景家であるジル・クレマンが初来日を果たし、「都市のビオロジー」「地球という庭」「庭のかたちが生まれるとき」という三つのテーマ──これらはクレマンの主要概念「第三風景」「惑星という庭」「動いている庭」に対応する──を扱う連続講演会が開催された。会場には初来日にして初邦訳の著者とは思えないほど多くの観衆が詰めかけ、この種の講演会としては異例の熱気に包まれた。

「都市のビオロジー」では、ヴァシヴィエールの航空写真に映し出された明度を二分する二つの区画、すなわち明るい部分(=牧草地)と暗い部分(=管理された森)には、調査の結果多様性があまり存在しなかったこと、むしろ人が立ち入らない土地の境界や傾斜の強すぎる場所、道端などに多様性があったことが報告された。そうした土地をクレマンは「第三風景」と呼び、都市の空き地や農村地帯の放棄地、国境地帯など、世界各地のさまざまな場所に見いだし、それらを多様性のレフュジア(待避地)として提起していく。人間が顧みない場所、あるいは抑圧している場所をあえて評価するクレマンの姿勢から、風景の価値を積極的に攪乱し、デザインとしての庭や修景の現状を批判的にとらえる観点が示された。

会場を京都に移した「地球という庭」ではさらに大きな観点から生物圏──深海から大気までを満たす水を象徴とする──と庭を結びつけ、この地球を庭としてとらえる必要性が提起される。有限で、生物の混淆が進み、人間の活動が行き渡っている空間としての庭-地球。そうとらえるならば、人類は庭師の位置にあるのだから庭としての地球を管理していく責任をもつという。しかしながら会場からの声にもあったとおり、地球をも庭として語ってしまうクレマンが、「庭」をどのようなものとしてとらえているのか、曖昧さが残るだろう。この問いにたいする答えがあるとすれば、同じく京都でおこなわれた「庭のかたちが生まれるとき」を待つ必要がある。ここまでの二講演をとおして、クレマンが念頭に置いている「庭」とは、最終日に語られる「動いている庭」だからだ。

「庭のかたちが生まれるとき」では、もっとも初期に提唱された主要概念「動いている庭」が主題となり、クレマンの自邸の庭での実践報告をとおして、そもそも土地に定着していた侵略的外来種、コーカサス原産のハナウド(Heracleum Mantegazzianum)とのやりとりのなかで庭のかたちが導き出されていく様子が具体的に語られた。造園家の田瀬理夫はこの講演への応答として、庭が、庭をも含むより広い文脈──水系、地形、生態系など──に巻き込まれていることを強調し、アクロス福岡の事例報告とともに、庭にたいする姿勢をクレマンと共有することとなった。

「動いている庭」では、庭師は植物を含めた自然環境の動きを読み、それにしたがうことでその場を多様な状態として管理している。だとすれば、おそらくクレマンにとって、庭と自然環境は連続的に推移しうる構造をもつものと考えられる。それでも周囲の環境とは異なるものとして庭が識別されるとき、その範囲は敷地境界や建築との関係によって一義的に決められるのではなく、連続的な推移の程度を決定する要因、つまり庭師の働きが及ぶ範囲──顕在的にであれ潜在的にであれ──によって定められるのではないだろうか。

この三講演をとおして、まずは庭師-修景家として知られるクレマンが、日本では思想家、エコロジストとして先に認知されてしまうという転倒した状況が生まれてしまったとはいえ、美学者アラン・ロジェが『動いている庭』にテクストを寄せ、同じく美学者ジル・ティベルギェンがクレマンとの対談を共著として刊行し、また人類学者フィリップ・デスコラがクレマンをコレージュ・ド・フランスに招いているように、本国フランスでも理論家として熱いまなざしを注がれているこの庭師-修景家の一端に直に触れることができたことを、まずは喜びたい。(山内朋樹)

【付記】
きわめて短いながらも本講演会の映像記録が、主催した地球研のホームページ、およびジル・クレマン氏のホームページにあがっている。また講演の合間を縫って訪れた目黒の自然教育園での一幕がみすず書房のホームページに綴られているので、あわせて参照されたい。

ジル・クレマン連続講演会 Gilles Clément, un jardinier français au Japon

「都市のビオロジー」(撮影:エマニュエル・マレス)
「都市のビオロジー」(撮影:エマニュエル・マレス)

「地球という庭」(撮影:和出伸一)
「地球という庭」(撮影:和出伸一)

「庭のかたちが生まれるとき」(撮影:エマニュエル・マレス)
「庭のかたちが生まれるとき」(撮影:エマニュエル・マレス)