小特集 各国の出版事情 中国

中国の出版事情
劉文兵

中国の出版社は、党の「中央宣伝部」、政府の「国家新聞出版広電総局(国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局)」によって管理されており、現在、その数は500以上ある。

かつての社会主義計画経済時代には国の経費で賄われる「事業単位」と位置づけられていた中国の出版社は、2004年以降、市場競争に参加する「企業」に変わった。今、世界の書店規模上位10店のうち、中国がその大半を占めるほど、中国の出版市場は大きなマーケットとなっている。

中国語人口は国内外合わせて推定14億人にのぼる。中国語書籍は、発行部数が多いため、一冊当たりの販売価格は低い。北京から出版された拙著『日本電影在中国』は318頁の学術書だが、販売価格は36元(500円相当)に過ぎず、日本での類書の約10分の1程度に抑えられている。

中国の人文系学術書の出版は「商務印書館」「中華書局」「三聨書店」などの由緒ある大手出版社にくわえ、各地に点在する大学出版会、研究機関の付属出版部門によって支えられている。

インターネットの普及にもかかわらず、学術書の発行部数に大きな落ち込みは見られず、むしろ分野、種類において多様化している。その背景には読者の購買力の増大や教養の高まりがあるようだ。たとえば、本来市場の狭い大型美術書が、豪華な装丁にもかかわらず、各地の美術専門の出版社から数多く上梓されつづけている。

また、伝統的な国営の書籍販売網(新華書店)にくわえ、インターネット書店の急増や、中国版ツイッターの「微博」と中国版LINEの「微信」を通じてのキャンペーンも学術書の販売に寄与しており、さらには、その狭間にある、小規模の民営書店の活躍も看過してはならない。大学キャンパス付近に出店した「芸術書専門書店」や「現代詩集専門書店」などは、インテリ層のニーズに応え、学術本の流通を促している。

いっぽう、中国の人文系学術書の出版は大きな問題点を抱えている。企画力の乏しさから生じる類書出版の乱発や、立て続けに起きる盗作問題はそれにあたる。背後には、学術本出版の審査の基準とシステムが確立していないという事情がある。そのなかで、「三聨書店」が出している「哈佛(ハーバード)燕京学術叢書」シリーズは、発刊して以来、20年経ち、学術的に信頼の置けるクオリティーの高いブランドとなっており、中国の学術書出版に方向性を示している。

劉文兵(早稲田大学)