新刊紹介 | 翻訳 | 『動いている庭 谷の庭から惑星という庭へ』 |
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山内朋樹訳(訳)
ジル・クレマン(著)
『動いている庭 谷の庭から惑星という庭へ』
みすず書房、2015年2月
庭と植物を愛する者に捧げられた実践の書──異国の新しい植物を数多く導入しながら進められる庭づくりと、それら植物の特徴や植栽手法の豊かな記述は、世紀をまたいで世界の庭師や庭園愛好家たちに読み継がれてきたウィリアム・ロビンソンの『野生の庭』を彷彿とさせる。19世紀末にロビンソンが植物の新たな使用をとおしてイギリス庭園の潮流を決定的に変えてしまったように、20世紀末に現れた本書もまた、植物による庭園革命を先導するものだ。
しかしそう述べるだけではクレマンの著述を導いているもの、すなわち庭にはじまり都市、風景、エコロジーといった錯綜した事象──それでいて人口に膾炙してもいる語りの場──に新たな光を投げかける着想の数々を見落としてしまうだろう。
荒れ地(や空き地、放棄地、そして道端)のなかを点々と移りゆき、また地球規模でも移動し、土地を奪い奪われ、混在していく植物たち。観察と実践のなかで見いだされ、本書の理論的背景となった着想のひとつが、この放浪と混淆である。自邸の谷の庭、アンドレ・シトロエン公園、レイヨルの園、その他大小さまざまなプロジェクトに実現されていく「動いている庭」とは、その形象にほかならない。
顧みられることのない荒れ地にこそ多様性が息づいている。この観点のもとで、世界各地に散在する荒れ地は多様性の保護区へと読み替えられていく。外来種をも分け隔てなく繁茂させているこの空間をモデルとすることで、庭や生態系に投影されてきた秩序や純粋性といった観念は再考を迫られるだろう。
本書は多数の美しいカラー写真や挿図とともに記された庭の実践の書である。けれども、放浪と混淆という特異な自然像をめぐって紡がれる新たなエコロジーの書でもあるのだ。(山内朋樹)
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