新刊紹介 | 編著/共著 | 『他者のトポロジー 人文諸学と他者論の現在』 |
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斉藤毅(分担執筆)
岩野卓司(編)『他者のトポロジー 人文諸学と他者論の現在』
書肆心水、2014年12月
他者、ないし他者性は20世紀後半の人文諸学の動きにおいてキー概念の一つをなしていた。レヴィナス、ラカンのように自らの思想叙述の中心にこの概念を据えた人々もいたが、それに限らず哲学、文化人類学、精神分析、ジェンダー論、言語学、文芸学といったディシプリンがそれぞれの問題系を追究する中で、全体に共通する核としてこの概念が析出されてきた――すなわち、他者という概念設定により、人文諸学のそれぞれの問題系が互いに連結されていったのだと言ったほうがよいかもしれない。
本書の編者、岩野卓司が嘆くように、他者の問題は一頃に比べると表立って論じられることが少なくなったようにも見える。しかし一方で、これも岩野が指摘する通り、かつて学問的問題として論じられた他者、ないし他者性は、今日では様々な面ですでに日常に浸透し、したがってそれは実践的な問いへと移行しているのではないか。本書は明治大学人文科学研究所における共同研究「他者のトポロジー」の成果であるが、そこでは以上のような問題意識のもと、人文諸学の様々な分野における他者の問題について討議を行なった。扱われたのは、先に挙げた諸分野の他、思想史、歴史学、法学、ヨーロッパと日本の古代、中世、現代文学に及ぶ。すなわち、それはまた、今日的課題としての他者論から出発し、他者性の問題を歴史的に遡行してゆく試みとも言える。(斉藤毅)
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