新刊紹介 単著 『日本メディアアート史』

馬定延(著)
『日本メディアアート史』
アルテスパブリッシング、2014年12月

本書は、日本におけるいわゆるメディアアートの歴史を一定の方法にもとづいて網羅的に記述した、おそらく最初の研究書である。「いわゆる」と書いたのは、メディアアートというジャンルの規定は現在にいたるまで明確ではなく、そのうえ、その歴史は、「メディアアート」という語が現在と同じようには流通していなかった過去に向けて遡及的に記述されるほかないからである。歴史記述は、そのなかに包摂されるべき対象の定義を原理的に必要としているが、本書は、現代アートの一ジャンル(およびそのジャンルに含まれる作品群)としてメディアアートに定義を与えるよりもむしろ、「作家と作品と観客を取り囲む環境としてのテクノロジーの発達に伴う社会現象」(15頁)としてメディアアートを捉えることで、「メディアアート」なる領域が社会のなかで形成されていく歴史的過程を描写することに成功している。

こうした方法論的前提ゆえ、本書において、個々の作品や作家、そして流派が織りなすスタイルの変遷が系譜的に記述されることはない。そのかわりに筆者が関心を向けているのは、メディアアートを生み出す社会的な場であり、その結果、本書においては、日本におけるメディアアートの起源として、テクノロジーに関心を寄せていたアーティストたちが大量に動員された1970年の大阪万博が選びとられることになる。その後の論述において描かれるのも、つくば科学万博(1985)、名古屋国際ビエンナーレARTEC(1989-1997)、キャノンのARTLAB(1991-2001)、NTTのInterCommunication Center(1997-)といった場において、行政や産業とのせめぎあいのなかでテクノロジーを用いた表現の場が形成されていくプロセスであり、それらの場所をつないできた人と人のネットワークである。

おおむね1990年代までを対象としている本書は、メディアアートなる領域がすでに既成事実として承認されている現在の状況について直接語っていない。しかしながら、Rhizomatiksとチームラボがスター選手として活躍し、文化庁メディア芸術祭や「魔法の美術館」展が毎回異常なほどの盛況を見せる「日本」「メディア」「アート」の来歴を的確に理解するためには、本書のような歴史的視座こそが必要とされている。豊富な資料と著者自身が当事者に行った多くのインタビューに裏づけられた本書の歴史記述は、日本のメディアアートを研究するにあたって今後欠かすことのできない参照点になるだろう。(門林岳史)

馬定延(著)『日本メディアアート史』アルテスパブリッシング、2014年12月