新刊紹介 | 単著 | 『ロトチェンコとソヴィエト文化の建設』 |
---|
河村彩(著)
『ロトチェンコとソヴィエト文化の建設』
水声社、2014年11月
解放の夢か、権力との共犯か──ロシア・アヴァンギャルドをめぐる言説は、この両極のあいだの価値評価に色づけられてきた。共犯のふりをした対抗などと少し議論をひねってみても、絵の具の配分程度しか変わらない。そんなこびりついた絵の具を洗い流して、ロシア・アヴァンギャルドという素材そのものを、本書はいまいちど丹念に観察し記述しようとする。
主題となるのはアレクサンドル・ロトチェンコの「コンストラクション」の理念と実践である。この理念によってロトチェンコは、芸術作品の造形的構成と、社会主義的な新たな生の組織化とを統合的に思考した。芸術が創造されるように新たな世界がつくりだされねばならない──ロシア・アヴァンギャルドのこの中心理念を丁寧にたどりなおすことで、本書はその看過されがちな、あるいは矛盾する細部に光をあてる。たとえば、小説や絵画のミメーシス性に対置される写真のインデックス性(「リアリズム」に対置される「ファクト」)は、新たな生の建設という目的にとって、どこか収まりの悪いものだったように思える。
過剰な装飾の排除というコンストラクションの条件に倣うかのように、ストイックな記述を積みあげる本書は、ロシア・アヴァンギャルドに関する基本書として、長く日本で参照されることになるだろう。もっとも、コンストラクションが装飾を退けたのは、美とは異なる新たな目的へと芸術を差し向けるためだった。ロシア・アヴァンギャルドという素材を脱色したあと、それをどのように使うかは読者に委ねられている。(乗松亨平)
[↑ページの先頭へ]