新刊紹介 単著 『イメージの根源へ 思考のイメージ論的転回』

岡田温司(著)
『イメージの根源へ 思考のイメージ論的転回』
人文書院、2014年12月

魅力的なタイトルである。巻頭論文では、「影」「痕跡」「水鏡」が絵画の「アルケー」として簡潔明解に論じられる。その理論的・歴史的なパースペクティヴはこの著者らしく広く、同時に美学=感性論の堅固な基礎のうえに展開されているため、比較的短い論考のなかにも学識の凝縮がある。透視図法という絵画の「法」を明確化したアルベルティにとって、ナルキッソスの神話は絵画の「インファンティア」であり、絵画がみずからを打ち立てるために通過しなければならぬ「鏡像段階」だったのではないか、といった刺激的な指摘をはじめとして、イメージをめぐる「根源」的なダブルバインドが多面的に浮かび上がる。それらが「イメージ論的転回」「ポスト・メディウム」などのアクチュアルな主題と切り結ぶところに、著者のしなやかで鋭い知的感受性が光る。「イメージへの問いは、人間への、歴史と現代への、共同性への問いと無関係ではありえないのだ」──イメージ論内部に自足するのではなく、こうした「問い」をめぐるさまざまな思考のあり方そのものを「転回」させる契機となることこそ、本書の目論むところであろう。そのための「軸」は、「論(ロゴス)」そのものの構成以上に、イメージの感性的経験をロゴスへと媒介する、著者の繊細な手つきという「身振り」であるように思われた。(田中純)

熊木淳(著)『アントナン・アルトー 自我の変容 〈思考の不可能性〉から〈詩への反抗〉へ』