新刊紹介 | 編著/共著 | 『十和田、奥入瀬 水と土地をめぐる旅』 |
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管啓次郎(共編)
『十和田、奥入瀬 水と土地をめぐる旅』
青幻舎、2013年9月
本書は2013年秋に開催された十和田奥入瀬芸術祭のカタログに相当する書籍である。が、それだけにとどまる本ではない。もちろん芸術祭出品作に関連するテクストも収録されているが、それに加えて短編小説3篇と畠山直哉による撮り下ろしの写真も収録されており、この書籍自体が芸術祭のもうひとつの(ヴァーチャルな)会場という趣向になっているのである。この書籍のために、小林エリカ、石田千、小野正嗣の3名の作家はそれぞれ、芸術祭の3つの会場である十和田湖、奥入瀬渓流、十和田市街にまつわる物語を書き下ろした。例えば芸術祭を訪れた帰路、記憶も新しいままにこの本のページをめくってみる。そうすると、まだ自分の体に染みついている土地の風景やにおいが、その土地の歴史に根ざして紡がれる虚構の物語と混じりあう不思議な経験をすることになる。その意味ではこの本全体を、書籍という古いメディアを舞台にして現実と虚構、記憶と歴史を折りあわせるある種の拡張現実的なメディア・アートの作品と理解することができるだろう。地方の芸術祭に観客を呼び寄せるというはやりの企画に対する精察によって成し遂げられた興味深い試みである。(門林岳史)
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