新刊紹介 | 単著 | 『美術のポリティクス 「工芸」の成り立ちを焦点として』 |
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北澤憲昭(著)
『美術のポリティクス 「工芸」の成り立ちを焦点として』
ゆまに書房、2013年7月
本書は、近代日本の工芸をめぐる制度とその思想的背景に関する従来の著者の論考群に、新知見と大幅な添削を加えたものである。第一に「美術」と「工芸」のジャンル成立史、第二に「工」から「美術」と「工業」が分離抽出された経緯が解説されるが、ここまでは明治前半の制度整備が主な範囲である。また、第三に東京府美術館開館(1926年)を軸に、工芸とアヴァンギャルドの同時かつ共通の位置づけとして、美術の制度化に反抗しながら、既存有力ジャンル(絵画と彫刻など)を安定させる「供犠」「ファルマコン」となった点が挙げられている。視覚イメージと精神性(「幽遠さ」)を本位にして構成された、絵画上位という造形美術のヒエラルキーが日本に成立する過程は、西洋美学の一運動が定着する過程といえる。これに対し、純粋な観賞性、あるいは美術と非美術との境界をつねに脅かす日本の「造形のミーム」として、ともすると同時代にあって逆方向の時代性をもつとされがちな工芸とアヴァンギャルドを扱う点が洞察に富む。本書の内容を超えるところでは、工部美術学校からフェノロサへ芸術の参照軸が遷移するという、先述したいわば西洋の正統の定着が「工業」の側からどう見えていたのかに関して、建築・造園・造林・機械など広範な分野に応答が求められるところである。おそらく各ジャンルにおける技術展開のタイミングやスピードにより差はあるだろうが、戦後の「デザイン」という語の定着よりは遡った時代に契機を見いだせるはずである。(天内大樹)
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