新刊紹介 | 単著 | 『美学から政治へ モダニズムの詩人とファシズム』 |
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石田圭子(著)
『美学から政治へ モダニズムの詩人とファシズム』
慶応義塾大学出版会、 2013年9月
芸術と政治との関係は、作品の意味内容と時代背景、そして作家の政治性に依拠して問われてきた。他方で、芸術の純粋な自律性を強調し、作品の形式を分析するフォルマリズム批評は、この厄介な結びつきを単純化するか、回避しようとしてきた。本書の意義は何よりもまず、広く近代文化研究の抱えるこの困難に果敢に挑戦した点にある。その考察は、美的なものと政治的なものの、ファシズムとモダニズムの「浸潤」に向けられる。そこにあるゲシュタルト(形姿)への欲望が、大戦期という精神的危機の時代に綴られた詩行や詩論を介して浮かび上がってくる。ホーフマンスタール、ベン、ヒューム、パウンドという、言語も出自も政治的立場も異なる同時代詩人たちの言葉に通奏低音のように響くかたちへの欲望。筆者はそれを、(フォルムでも様式でもなく)ゲシュタルトの概念を駆使しながら丹念に解き明かしていくが、その説得的で明晰な論述が本書の醍醐味となっている。
詩人と体制のイデオローグによって幾重にも変奏されたゲシュタルトは、モダニズムとファシズムとの隠された思想的共鳴をわたしたちに垣間見させてくれるだろう。本書は、近代、とりわけ芸術と社会の両面で「秩序回帰」が叫ばれた時代を新たな角度から思考させてくれる類稀な成果である。(鯖江秀樹)
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