新刊紹介 翻訳 『エロスの庭 愛の園の文化史』

濱中春・森貴史(共訳)
ミヒャエル・ニーダーマイヤー(著)
『エロスの庭 愛の園の文化史』
三元社、2013年1月

庭園はその長い歴史を通して見ると、けっして風景を目で見て楽しむだけの場所ではなく、五感と身体全体で体験される空間であった。であるとすれば、性愛という身体的・官能的ないとなみもまたそこから排除されることはないのではないか。本書はそのような関心にこたえて、庭園とエロスの関係をヨーロッパを中心として歴史的にたどり、愛の園の文化史を描きだしたものである。その記述は庭園史のみならず、神話、文学、美術、風俗、教育史など多くの分野に渡り、興味深いエピソードや指摘に満ちている。なかでも特筆すべきは、18世紀ドイツを代表する風景庭園、ヴェルリッツ庭園にかんする考察である。啓蒙思想の具現という側面をもつこの庭園において、同時に数々の性愛のモチーフが見られることが指摘され、アプレイウスの『黄金のろば』を鍵としてそれらの意味が解読される部分では特にオリジナリティのある論が展開されている。

全体として本書は、ヨーロッパ文化の中に、キリスト教的禁欲主義とは別に、古代オリエントからギリシア・ローマをへてひきつがれた、官能を生のよろこびとして享受する思想や文化的実践の系譜が脈打っていることを、庭園という独自の切り口から浮かびあがらせたユニークな文化史の試みということができる。(濱中春)