新刊紹介 | 翻訳 | 『ドストエフスキーの創作の問題』 |
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桑野隆(訳)
ミハイル・バフチン『ドストエフスキーの創作の問題』
平凡社ライブラリー、2013年3月
バフチンのドストエフスキー論といえば、まず思い浮かぶのはポリフォニー論とカーニヴァル論であろう。ところが本書には、すでに邦訳されている増補改訂版(1963年)とちがってカーニヴァル論がまったくない。当人名で出した最初の著書である本書が公刊された1929年時点では、バフチンはまだカーニヴァル論を完成させていなかったのである。本書ではバフチンは、ドストエフスキーの認識論的側面や倫理ではなく芸術性を問題にしているのだとしきりに断っている。けれども、ドストエフスキーが芸術形式の面でいかに革命的であったか、つまりポリフォニー的であったかを立証していく過程で実際に試みているのは、近代西欧のイデオロギー一般に潜むモノローグ原理に対する根底的批判であった。こうしたアプローチの特長は、ポリフォニー論と対話的言語論を2本柱とした本書のほうが増補改訂版よりも鮮明に見てとれよう。また、後者で削除された「内在的社会学」や、修正を余儀なくされた現象学関連用語などからも、当時のバフチンの思想が明確に理解されるものと思われる。
ちなみにバフチンの著作を初めて手にとる方であれば、まずは、対話的文化観が平易に語られている「より大胆に可能性を利用せよ」(1970年)から読まれてはいかがであろうか。(桑野隆)
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