新刊紹介 翻訳 『ドイツ反原発運動小史 原子力産業・核エネルギー・公共性』

海老根剛(共訳)
ヨアヒム・ラートカウ(著)
『ドイツ反原発運動小史 原子力産業・核エネルギー・公共性』
みすず書房、2012年11月

私たちの社会にとって原子力技術を責任ある仕方で扱うことは可能だろうか? これは原発事故から二年を経てなお数万人の人々が避難生活を余儀なくされている現状では、切迫した問いであり続けている。原子力技術の制御可能性を見極めるには、この技術の発展を主導した主要なアクターを明らかにする必要がある。もしそのようなアクターを同定できるならば、それに効果的に働きかけることで原子力技術を制御することも可能になるだろう。

ヨアヒム・ラートカウは、いち早く1970年代末にこうした問いを抱き、当時ボン近郊の兵舎に保管されていた原子力委員会の非公開資料や、原子力を管轄していた連邦研究省の議事録を精査し、原子力産業の当事者たちへの聞き取り調査を行った。その成果は1983年に大著『ドイツ原子力産業の興隆と危機 1945-1975』にまとめられるが、そこでラートカウが下した結論は意外なものであった。つまり、ドイツの原子力技術の発展をある程度の継続性を持って一義的に規定した主要なアクターは存在せず、むしろ原子力技術の発展は「すべての当事者の意に反するかたちで」進行したというのである。原子力技術のリスクはまさにこの点にあり、ドイツの反原発運動が公共的議論によってそれに反応したことには正当な理由があった、とラートカウは指摘した。

本書は、フクシマ後にラートカウが書き下ろした「ドイツ反原発運動小史」を中心に、過去の主要論文とインタビューから構成されている。原子力技術の歴史に潜む「別の可能性」は、本書で著者が素描しているような、ナショナルな文脈の綿密な精査に立脚した国際比較によってこそ明らかになる。なおラートカウは今年2月に1983年の大著の改訂版とも言える著作(Aufstieg und Fall der deutschen Atomwirtschaft, Oekom, 2013)を発表し、ドイツの原子力産業の歴史(「興隆と没落」)を総括している。(海老根剛)