新刊紹介 編著/共著 『原発避難と創発的支援 活かされた中越の災害対応経験』

田口卓臣、松井克浩(分担執筆)
高橋若菜(編著)
『原発避難と創発的支援 活かされた中越の災害対応経験』
本の泉社、2016年5月

東京電力福島第一原発事故は、十数万人もの広域避難者を生み出したまま、現在に至っている。本書は、この未曾有の事態に当初から逸早く対応し、次々に対策を打ち出していった新潟県の試みに関する記録である。当時、避難者支援の陣頭指揮に当たった新潟県防災企画課課長の細貝和司氏と、行政と民間をつないだ中間支援組織職員の稲垣文彦氏による証言を中心に据えている点で、特徴的な書物だと言えよう。

新潟県は原発事故後、福島県などから最大で約9,600人の避難者を受け入れた。福島、宮城、岩手の被災3県を除くと、2011年8月時点の受入数は、山形県に次いで全国2番目に多かった。これは、中越地震、中越沖地震など過去の災害に学んだ新潟県の行政職員が、当事者のもとにじかに出向き、継続的な意向調査や、国の支援対象から漏れた人々への救済策を展開したためである。子育て中の被災者を対象にした高速バスや高速道路利用料の無料措置は、なかでも最も効果を発揮した新潟県独自の施策であった。

本書は、行政職員が現場主義を貫き、「底辺ガバナンス」を徹底化することで、被災した当事者の生活再建に向けた創発的な支援が可能であることを示している。巨大災害が多発し、どこでも広域避難問題が現出しうる今日、国や自治体の職員をはじめとして少しでも多くの方々にご一読いただきたい貴重なガバナンスの記録である。(田口卓臣)

田口卓臣、松井克浩(分担執筆)高橋若菜(編著)『原発避難と創発的支援 活かされた中越の災害対応経験』本の泉社、2016年5月