新刊紹介 編著/共著 『地域アート 美学/制度/日本』

藤田直哉(編著)
加治屋健司、清水知子、星野太、ほか(分担執筆)
『地域アート 美学/制度/日本』
堀之内出版、2016年3月

本書は、雑誌『すばる』に掲載された藤田直哉の論考「前衛のゾンビたち——地域アートの諸問題」(2014年10月号)が大きな話題を呼んだことをきっかけに編まれた著作である。同論考において藤田は、近年増加の一途をたどる「地域」名を冠した芸術祭やアートプロジェクトを総称して「地域アート」と名づけた。同論考は、そうした「地域アート」がもつ構造的な問題を美術のアウトサイダーの目から明らかにしたものである。藤田の専門はSF・文芸評論であり、同論考に対しては美術の「インサイダー」から多くの批判も寄せられたが、「地域アート」という名称も含め、藤田の問題提起が多くの議論の呼び水となったことは否定できない。

同書『地域アート』は、「前衛のゾンビたち」において語り残されたさまざまな問題を、三つの論文と五つの対談・座談会によって先鋭化したものだ。加治屋健司・清水知子・北田暁大の三氏の論文は、それぞれ美術史、文化理論、社会学の立場から「地域アート」の問題に適切な補助線を引いている。さらに、筆者(星野)、田中功起+遠藤水城、藤井光、会田誠、じゃぽにか+佐塚真啓と藤田の対談・座談会では、それぞれ立場を異にするアーティストやキュレーターとの対話を通じて、「前衛のゾンビたち」において示唆されるにとどまった論点が、さらに多方向に展開されている。

同書はすでに四刷を重ね、多くの書評も出ているので、本書のより詳しい紹介についてはそちらも参照されたい。同書について、共著者の立場から一言するなら、本書の意義は——「地域アート」という問題含みの呼称も含め——これまで多くの人々が違和感を抱きつつも、適切な言葉を与えられていなかったイシューに果敢に切り込んでいったことにある。その意味で、藤田が現代美術のある種の動向について、その作品が「問題提起」を行っているという事実が「芸術性の証明」と混同される傾向に警鐘を鳴らしているのとは裏腹に(14頁)、本書はまさにその「問題提起」の切れ味(とそれにともなう「炎上」)によって評価されるという「行為遂行的矛盾」と切り離せない(筆者の指摘、49頁)。しかし本書の対談・座談会を読めば、藤田がそのような戦略に十分自覚的であることがわかるだろう。本書において編者が投げかけた挑発を通じて、今後さまざまな議論が重ねられていくことが期待される。(星野太)

加治屋健司、清水知子、星野太、ほか(分担執筆)藤田直哉(編著)『地域アート 美学/制度/日本』堀之内出版、2016年3月