新刊紹介 | 翻訳 | 『フローベールにおけるフォルムの創造』 |
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芳川泰久(共訳)
ジャン=ピエール・リシャール(著)
『フローベールにおけるフォルムの創造』
水声社、2013年11月
本書を収めた『文学と感覚』は、リシャールにとっても、〈ヌーヴェル・クリティック〉にとっても、また蓮實重彦の紹介によって日本の批評にとっても、まさに画期的な書物だった。残念ながら、日本にテマティスムは根づかなかったが、これによってわれわれは20世紀後半が批評の時代になるだろうと予感したのである。それくらい、それまでの研究・批評の言葉とは異質だった。
蓮實重彦がじつに巧みに訳した「フローベールの小説ではたらふくものがつめこまれる」という冒頭の一行からも分かるように、本書は、フローベールが繰り出すものと主体(リシャールは「フローベール的存在」という)の関係を追いながら、小説家の存在論的な想像力のかたちをとりだし、最終的にはフローベールにとっての言語のありように迫ってゆく。そのなかで、とりわけ水という物質の果たす役割に示した炯眼は特筆に価するだろう。
それでいて、リシャール自身の言語もまたじつに稠密で、ときにエロティックでさえある。それだけで批評としてすっくと自立している。自分で訳しておいて言うのも何だが、「訳者あとがき」も、著者の「私」という言い方をめぐって、一つの見解が示されている。(芳川泰久)
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