PRE・face

PRE・face
RE-facing REPRE
佐藤良明

このサイト、ラボラトリーズ(当時「東京ピストル」)の加藤さんのお仕事だが、学会広報誌にしてずいぶん斬新なデザインで、とりわけカッコイイのがタイトルの表示である。トップページの左肩で R E P R E の5文字が、切断と接続を繰りかえす。RE/P/RE に別れ、REP/RE や RE/PRE をなし、R/RE/EP へと崩れたか、と思うとまた体勢を立て直し、まるで盛り場のネオンのように踊り続ける。

この文字アートを解読してみよう。まず5文字全体がつくるREPREが、それ自体断片であること。カタカナ欧語でも、「ルプレザンタシオン」または「リプリゼンテイション」とでもなるところを、「レプリ」とか「ルプレ」とか破片的な呼び名で呼ばれる。その名がさらに断片化して、バラケながら、繰り返しによって全体を表現している。

8年前だったか、初代の広報担当だった私は、これを見ながら、表紙ページの名を「PRE・face」にしよう、と思ったのだった。図像的に、何となくそう思っただけだが、理屈をあとづければ、こういうことなるだろう――

PREとは REPREの部分である。REPRE とは REPRESENTATION の部分である。それらには部分と全体との間に、前者が後者をレプリする(部分によって代行する)提喩的関係の理想がこめられている。各号のPRE・face を担当する人は、学会の一部局である『REPRE』の、そのまたⅠページを担当するにすぎないわけだが、それでも人の顔が常になにかしらの全体を映し出しているように、「一カケラの全体」としての、顔を見せあっていけたら……。

宝石の「切子面 facet」が宝石全体の「輝き」をあらしめるように、きみも私も、それぞれが「まるごとの表象文化論」でいられたら……。

なんですか、それは、と言われそうだ。70年代のホーリズムですか。ケストラーのホロンみたいな考えですか。

接続過剰の状況からの切断を求める欲望がうずまくデータベース社会において「全体性」の主張は一般にあまり旗色がよろしくないのかもしれない。そういうのって、白人男性中心主義の罪多きファンタジーとして糾弾されまくってきたものじゃないですか、と言われてしまいそうな気もする。それでも人間を対象に思考する以上、「まるごと」への接続を断つわけにはいかない。なぜなら、よく言われるように、人間は「間 between」を生きる存在だからだ。つねに切っても切れない空隙に囲まれている。より大きな全体に開かれている。

研究者にしてもそれは同じだ。自分が向かっている(facing)対象は、ただの facet(宝石の切子面/一つの小さな顔)にすぎない。だがそれが(顔として)輝くか否かは、他の facets から屈折してくる諸光線の具合にかかっている。

人間だけではない。機械であっても閉鎖したら動けなくなる。ピストンが動くためには、外部からのホットな空気の流入が不可欠だ。エントロピーの法則とは、それを言っている。

人文系の多くの教員が、「専門」を看板にする孤立閉鎖系システムの中で熱死状況にはまっていくなかで、大集団に守られることを拒みつつ、一匹狼として厳しくつながり合ってきた若手研究者が、表象文化論学会にあっては、すでに新しい時代の幕を切って落としつつある。そんな印象を、『REPRE』にアクセスする全国の研究者たちは、共通して抱くだろう。

最近、某大学(旧国立大)の公募に「担当分野:表象文化論(芸術一般・文学一般)」とあるのを発見して喜ばしく思った。しかし、と同時に「まずいぞ、気をつけないと」という気にもなった。「まずい」というのは「分野としての一般」に引き入れられてしまうことの危険に対してである。細分化した小部屋の一つに「一般」の札を掛け、それをエクスキュースにすることは、分断主義的思考にとってふつうのことだからだ。

部分と全体との間には決定的な段差がある。その折り合いのつかなさから活力を得るような、パラドクシカルでシネクドキカルな思考を貫くというのは、いつの時代にも負担が重い。「パラドクスを糧に生きる」なんて、軽々しく口にできることではない。それは狂気にも開かれている。だけど、決して身内贔屓で言うのではなく、21の層が積み重なった『REPRE』のあちこちをつついてみると、実感として、勇気がもらえるのだ。みなさんもぜひ試してほしい。本当に元気になる。熱い空気が入ってきて体内のピストンが動き出しそうな感じがする(笑)。

各号のPRE・face にはこのところ、現場で学会を牽引している若手理事たちが登場するのが恒例になっていたが、それが一応一周したのか、自分のところに再びお鉢が回ってきたこの機会に、世代と分野にまたがった稀有なつながりのなかに身を置くことの有り難さを思い、そのことについて、少々理屈を述べさせていただいた。

佐藤良明

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今回の『REPRE』では、学会誌『表象08』の特集企画「ポストメディウム映像のゆくえ」と連動して、小特集「ポスト・ミュージアム・アート」を企画しました。学会誌とあわせてお読みいただければ幸いです。(REPRE編集部)