新刊紹介 編著/共著 『マラルメの現在』

坂口周輔(分担執筆)
大出敦(編)
『マラルメの現在』 水声社、2013年11月

マラルメ研究の末席を汚す私が言うことでもないが、日本におけるステファヌ・マラルメ研究の水準はやはり高い。2010年に最終配本として満を持して刊行された筑摩書房版『マラルメ全集Ⅰ』の、それに付属された注釈本のなんと分厚いことか。そして、去年刊行された本書『マラルメの現在』は、マラルメ研究の新たな世代が、先代によるマラルメ全集を仰ぎながら、この「書物」を引き継ぎつつ、自分たちにとっての「現在のマラルメ」を論じたものである。『全集』の世代からこの本書の世代へとバトンを繋ぐかのように竹内信夫氏の文章が本書の冒頭を飾る。そもそも『全集』世代が己のマラルメを語った昭和53年刊「海」の特集のタイトルも「マラルメの現在」でなかったか。

言語、詩、芸術、詩と音楽の交差点、という4つの視点からのアプローチを試みる本書は、新たな世代による新たなマラルメ像を読者に提示することだろう。夥しく、そして多様に語られてきたマラルメはここで再び19世紀後半のフランスへと舞い戻り、当時花開いた肥沃な知の襞のなかに入り込む。その襞の極め細やかさに読者は戸惑うこともあるだろう。だが、詩人の放つ繊細な眼差しが当時をどうとらえたのか、それがまざまざと蘇ってくるに違いない。(坂口周輔)

坂口周輔(分担執筆)大出敦(編)『マラルメの現在』