新刊紹介 | 編著/共著 | 『美術の日本近現代史 制度・言説・造型』 |
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北澤憲昭(共編)
『美術の日本近現代史 制度・言説・造型』
東京美術、2014年1月
1980年代に始まる制度‐施設史的観点に拠る日本近代美術史研究の集大成である。ただし、制度‐施設史とはいいながら、言説実践を制度‐施設の成立要因として重視しており、このことは「制度 言説 造型」というサブタイトルに示しておいた。このように言説に基づく制度‐施設の社会的成り立ちを軸に日本近代美術の歴史を捉え返そうという本書の企ては、従来の美術史とは大いに異なる。従来型の美術史は、あくまでも造型を主軸としてきたからだ。とはいえ、本書は造型を軽視しているわけではない。言説や制度‐施設とかかわる次元で造型を捉え返すことが目指されているのである。「芸術」という存在の制度性を歴史的、社会的観点から探究する以上のような研究手法が出発点において目指していたのは、芸術を人類固有の営為とみなす本質主義への批判であったのだが、理性の凋落と感性の重視という思想状況と相俟って芸術への関心が高まりをみせつつある現在にあって、その役割は、芸術の社会的再構築の可能性の探究へと大きくシフトしつつあるかにみえる。理論的自殺になりかねない一貫性への拘泥を排し、また、終焉を宣言する形而上学に陥ることも回避しつつ、いかにして、制度‐施設史を現在へ向けて転態するか。これが、本書による最も重要な問題提起であると考える。(北澤憲昭)
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