新刊紹介 単著 『OL誕生物語 タイピストたちの憂愁』

原克(著)
『OL誕生物語 タイピストたちの憂愁』
講談社、2014年2月

関東大震災からの復興期、昭和初期の帝都東京では新たな労働に従事する女性が増加していた。家計補助のため、業務修養のため、そして時には自活の途をたてるべく、オフィスで知能的業務に従事する中流階級の女性たち。筆者は当時刊行されていた雑誌や官公庁統計の分析を通じて、職業婦人と呼ばれた彼女たちの日常や生態、女性をめぐる労働環境が再編成されていく様を詳らかにしていく。

と同時に本書は当時の平均的なサラリーマンである阿部礼二を狂言回しとした小説でもある。阿部とその友人の視線を通して、周囲の女性たち――彼が密かに恋心を抱くタイピストの平均子、均子の同僚で経済的・精神的な自立心の強い蒼井ハナ、彼女たちの上司で「お局様」のサリバン先生こと織田真利、サリバン先生と同世代の阿部の叔母、製糸工場での労苦がたたり若くして命を落とした叔母の友人、御子柴キク――が労働環境の再編成の只中をいかに生き、何に苦悩したのかが物語られる。

筆者は、サラリーマンの誕生を論じた前書『サラリーマン誕生物語』と同様、研究書であり、かつ小説でもあるという語り口を積極的に活かし、職業婦人によって生きられた日本近代をいきいきと活写していくのである。(林田 新)

原克(著)『OL誕生物語 タイピストたちの憂愁』