新刊紹介 | 編著/共著 | 『創られる歴史、発見される風景 アート・国家・ミソロジー(アメリカ美術叢書)』 |
---|
小林剛、横山佐紀(ほか分担執筆)
田中正之(監修解説)、石井朗(企画構成)『創られる歴史、発見される風景 アート・国家・ミソロジー(アメリカ美術叢書)』
ありな書房、2016年1月
「アメリカ美術」と聞いて思い浮かぶのは、どのような作家や作品だろうか。おそらく多くの人にとってそれはジャクソン・ポロックやマーク・ロスコ、アンディ・ウォーホルといった20世紀後半の作家たちであり、ニューヨーク近代美術館はたちどころに連想されても、メトロポリタン美術館の「アメリカン・ウィング(17世紀から19世紀初頭までのアメリカ美術を扱うセクション)」は想起しがたいのではなかろうか。だが言うまでもなく、建国以来、アメリカにはアメリカの美術があり、ヨーロッパ諸国の偉大な作家やマスターピースに比すればいささか慎ましやかな作品群であるには違いないにせよ、これらは時代時代に応じた「アメリカ的なもの」の創出にきわめて重大な貢献を果たしてきたのだ。
本書は、そのようなアメリカ美術を歴史的、政治的、社会的な文脈に照らし合わせつつ、5つのテーマから読み解こうという貴重な試みである。アメリカ建国神話を描き出す歴史画(第1章:描かれたアメリカ建国神話―国家理念の伝達装置としての歴史画)、建国理念を伝達する視覚装置としての肖像画(第2章:肖像画における「アメリカ性」の創出―大統領の身体をめぐって)、戦争の視覚表現とアメリカ再統合が問題となる南北戦争(第3章:死と再生、分裂から統合へ―南北戦争の表象とウィンスロー・ホーマー)、手つかずの自然にアメリカ的な起源を見出そうとする風景画(第4章:アメリカ風景画の発見とトーマス・コール)、テクノロジーの粋たる摩天楼が林立する都市風景(第5章:一人称の都市風景―ジョージア・オキーフ、フリーダ・カーロ、フローリン・ステットハイマーの描いたアメリカ)、これらを通じて私たちの目の前に立ち現れるのは、アメリカ美術の新たな見取図である。
しかし、本書を経てもなお、アメリカ美術において語られるべき時代や、手つかずのテーマはいまだ多く残されている。また、新興国家のアイデンティティと美術とをめぐる問題はアメリカのみに限定されるものではなく、地域横断的な研究を通じてより興味深い知見が望まれる領域でもあろう。この意味においても本書が担う役割は大きく、多くの読者の目にふれることを期待したい。(横山佐紀)