新刊紹介 | 編著/共著 | 『〈68年〉の性 変容する社会と「わたし」の身体』 |
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熊谷謙介(ほか分担執筆)
小松原由理(編著)、神奈川大学人文学研究所(編)『〈68年〉の性 変容する社会と「わたし」の身体 (神奈川大学人文学研究叢書)』
青弓社、2016年2月
〈68年〉の社会運動のインパクトや文化史的意義を論じるものは汗牛充棟の感があるが、この論集はとりわけ女性の身体に注目して、〈68年〉が性についての表象や言説に何をもたらしたのかを、ドイツ・イギリス・フランスというヨーロッパ諸国にとどまらず、アメリカから日本まで追ったものである。
『〈68年〉の性』において次々に示されるのは、自由を叫ぶ男性たちの陰で、彼らによって従属状態に留め置かれながらも反抗を続ける女性たちの物語である。そこに、ときにはエスニシティの問題が、ときには社会と個人の格闘──国家に従属しない「わたし」の身体、メディア環境に埋没しない芸術家個人の身体──といった問題が、織り込まれている。小説作品(アンジェラ・カーター)から映画(アニエス・ヴァルダ)まで、造形美術(アンナ・オッパーマン)から白土三平の漫画まで、雑誌というメディアから強制不妊手術に対する福祉権運動まで、さまざまな表現媒体を考察の対象とし、イデオロギー的な図式化を避けながらも、全編を通して見えてくるのは、〈68年〉前後に各地域で勃興する、身体をめぐる女性一人ひとりの格闘の歴史である。
本研究が挑むのは、〈68年〉の脱神話化や再評価にとどまらず、アクチュアルな視点の提示である。性をめぐる通念がしぶとく残る今日において、〈68年〉周辺の試みから得られるものはいまだに大きいと言わざるを得ない──、読み終わった後にそう嘆息してしまう著作でもある。(熊谷謙介)
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