新刊紹介 翻訳 『エウロペアナ 二〇世紀史概説(エクス・リブリス)』

阿部賢一(共訳)
パトリク・オウジェドニーク(著)
『エウロペアナ 二〇世紀史概説(エクス・リブリス)』
白水社、2014年8月

2001年という節目の年に刊行された本書は、2014年12月現在、30の言語に訳出され、ビロード革命以降で最も多くの言語に翻訳されたチェコ語の書物となっている。

パリ在住の作家パトリク・オウジェドニークによる著作の瞠目すべき点は、まず、そのコンパクトさにある。百年をわずか百数十ページで語るという凝縮した叙述は、読者にある種のスピード感を体験させてくれる。そして、もうひとつのラディカルさは何かというと、二十世紀にまつわるさまざまな事象の因果関係がきわめて独創的につなぎあわせられている点にある。時系列な記述を破棄しながらも、細かい数字のデータが並び、その一方で、出典のない引用や噂話を引きながら因果関係を論じるその手法は、「学術」的なアプローチの対極に位置し、むしろ手術台の上の蝙蝠傘とミシンの出会いに通じる驚きを読者に与えてくれる。そこから浮かび上がってくるのは、「戦争」や「ホロコースト」といった大きな物語が「マスタード」や「バービー人形」という消費物と並列される、スーパーフラット化した世界の様相にほかならないだろう。

著者はあるインタビューで「歴史に形を与えるのは文学だ」と述べているが、なにが起こったかではなく、どのように語るのかという表象の問題こそが、著者の関心の中核にはあったように思われる。二十世紀の「歴史」、「記述」、「表象」をめぐる刺激的かつ雑多な言葉が同書には詰まっている。(阿部賢一)

阿部賢一、篠原琢(共訳)パトリク・オウジェドニーク(著)『エウロペアナ 二〇世紀史概説(エクス・リブリス)』