新刊紹介 | 編著/共著 | 『文学理論をひらく』 |
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高村峰生(共著)
木谷巌(編著)『文学理論をひらく』
北樹出版、2014年10月
本書は5人の若手英米文学者の執筆による、主として海外文学を勉強する大学生に向けられた文学理論の入門書である。読者に語りかけるような「です・ます」調によって統一された本書は、決してイーグルトンやカラーのような網羅的な理論の概説や専門用語の辞書的解説を行っているわけではなく、テクストと理論の具体的な往還を通じて理論の実際的な応用可能性を示している。扱われている理論やトピックは、精神分析、フェミニズム、クイア・セオリー、人種理論、脱構築、受容美学、ポストコロニアリズムなどであり、それらがテクスト読解を中心とする第一部と理論についての叙述を中心とする第二部に配されている。
本書の最大の特徴は、大文字の「イズム」が衰弱した現代への眼差しが随所に垣間見られるところにあるかもしれない。たとえば “ポスト”フェミニズム、「ウェブ以後」の世界における「作者」と「読者」の位置、近年の形式的な精読への回帰の傾向などが説明される箇所は、理論が普遍妥当な真理ではなく、歴史的文脈と共に形成されていることを証立てているように見える。このことは、編者が「序文」においてド・マンを参照にしながら「危機」における「批評」の重要性を強調することとも響きあっていよう。(高村峰生)
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