新刊紹介 編著/共著 『記憶の遠近術~篠山紀信、横尾忠則を撮る』

佐藤守弘(共著)
『記憶の遠近術~篠山紀信、横尾忠則を撮る』
芸術新聞社、2014年10月

1968年、横尾忠則は篠山紀信に撮影を依頼する。それは『私のアイドル』という写真集を作るためで、その第一弾の相手に選ばれたのが三島由紀夫であった。巨大な日章旗の前に褌と鉢巻のみを身につけ、日本刀を手に横たわる三島。その横には学生服を身につけた横尾が薄笑いにも見える微妙な表情で立っている。

その後、丸山(美輪)明宏、嵐寛寿郎、高倉健、浅丘ルリ子などの「アイドル」たちとともに、それぞれの相手に合わせた扮装をするというステージド・フォトのシリーズが撮り続けられた。一方、1970年には、『an・an』の企画で、横尾が故郷・西脇を篠山とともに訪れ、旧知の人びととスナップショット的な写真を撮るというシリーズもはじまる。両者を合わせて、次第に構想は「写真による自伝」へと膨らみ、最終的には『私のアイドル』ではなく、『横尾忠則 記憶の遠近術』(講談社)というタイトルとなったという。しかし、それが出版に至るには、1992年を待たなければいけなかった。その写真集をもととして再構成されたのが、横尾忠則現代美術館における「記憶の遠近術〜篠山紀信、横尾忠則を撮る」展(2014年10月11日〜2015年1月4日)および本書である。

「アイドル」たちと撮られた写真にせよ、故郷で撮られた写真にせよ、本書に収められた写真のほとんどは、横尾自身の記憶にかかわるものである。ただ、そこで横尾は、単純に自らのノスタルジアに耽溺することはない。彼自身が「常に私の内部の前近代を外部にほうり出すことにより前近代を対象化して冷たく眺めていた」と語るように、ノスタルジアの対象を召喚し、それと距離を置きながら、写真というアナクロニックな媒体のなかで対象とともに凍りつくというアイロニックな姿勢。これが横尾の取った戦略、ノスタルジアとのつきあい方であったのであろう。(佐藤守弘)

佐藤守弘、山本淳夫(共著)『記憶の遠近術~篠山紀信、横尾忠則を撮る』