トピックス 3

講演会「スタジオ・アッズーロ 地中海への/からのまなざし」
STUDIO AZZURRO: lo sguardo, il Mediterraneo, l’avvenire

イタリアを代表するメディア・アート・グループ、スタジオ・アッズーロは、2012年、結成30周年を迎えた。これを記念する展覧会が、川崎市市民ミュージアムで開催され(2012年9月22日〜11月4日)、初期のヴィデオアート(video ambiente)から、近年のインタラクティヴなインスタレーション(ambienti sensibili)まで、グループの活動のエッセンスが紹介された。

松本市美術館における「スタジオ・アッズーロ 地中海への/からのまなざし」(信州大学人文学部主催、2012年9月28日)は、同展の関連事業として企画されたもので、グループの創立メンバーであり、現在その代表を務めるパオロ・ローザ(Paolo Rosa, 1949-)氏が作品紹介と講演をおこなった。

展開された話題は、グループの前史から、複数のヴィデオモニターを用いた初期の試み、映像プロジェクションとインタラクティヴ・システムの導入によって、環境・鑑賞者への働きかけを強める90年代後半以後の作品、さらに、映画や舞台とのコラボレーション事例など、さながらメディア・アート史の縮約であったが、コーディネーター兼通訳を務めた私にとって興味深かったのは、グループが目指すインタラクティヴィティの「起源」として、ローザ氏がくりかえし70年代の経験・実践を強調した点である。

他ジャンルとの融合を辞さないスタジオ・アッズーロの総合芸術志向は、ときとしてある種のスペクタクル性を帯び、とりわけ日本では、その特有の受容史と相まって(ラフォーレやエルメスによる後援)、アート=モードの幻想をかき立てた感があったが、本講演においては、たとえば青(アッズーロ)や地中海のシンボリズムや喚起力についてさえも、ローザ氏はほとんど言及せずに、むしろブレラ・アカデミー在学中からの、作家・作品主義の拒絶、恊働志向、スクウォッティング、後の社会センターcentro sociale に通ずる活動、要するにアウトノミア運動の一翼としての自らの芸術実践を語り、その帰趨にして展開として、スタジオ・アッズーロの誕生を位置づけてみせた。

ローザ氏の主張を精緻に分析・考証することは、私の能力を超えているが、スタジオ・アッズーロの強調するインタラクティヴィティの起源を、80、90年代のメディア・アートの台頭や、関係性の美学の流行とは別の次元で、すなわち70年代の都市の対抗文化との類縁において捉えるというのは、たしかに注目したい観点である。彼らは一貫してグループであることを重視し、市場に流通しうる作品づくり(スティル、スケッチ、マルチプル)を慎重に回避している。これは先行世代のアルテ・ポーヴェラの作家たちが、70年代はじめには個別の活動を強め、80年代からは商品としての魅力にも富む再制作的作品を手がけていったこととは対照的である。また、いささか楽観的に絵画に回帰したトランスアヴァングァルディアの画家たちがローザ氏の同世代であることを思えば、スタジオ・アッズーロの行動主義は、むしろ筋金入りにも思えてくる。

およそ2時間の短いレクチャーであった。結論を求めてはなるまい。それよりも、人口25万弱の山岳都市で、多数の来場者を集め、多文化的な対話の場が開かれたこと自体を成果としたい。いささか私事めくが、震災以後、この街の規模をいかすことを強く意識して活動している。この点からも、松本滞在と市民・学生との対話を楽しんでくれたローザ氏の理解と協力は、有難かった。ローザ氏と、そして来場のみなさんに、あらためてお礼申し上げたい。(金井直)