新刊紹介 翻訳 『盲目と洞察 現代批評の修辞学における試論(叢書・エクリチュールの冒険)』

宮崎裕助、木内久美子(共訳)
ポール・ド・マン(著)『盲目と洞察 現代批評の修辞学における試論(叢書・エクリチュールの冒険)』
月曜社、2012年9月

本書は、ポール・ド・マンが1971年に上梓した最初の論文集の翻訳である。1966年から1970年にかけて発表・出版された学会発表や雑誌論文、計9編を収録している。

いわゆる脱構築批評への先入見や、じっさい晦渋なド・マンの文体とは対照的に、「まえがき」で述べられる狙いは明確だ。文学作品と批評作品との区別にとらわれず「文学言語について理論化を行なうよりも前に、読むことの複雑さを自覚」すること、である。

だからこそ本書の主要な読解対象は、「読むこと」に意識的な同時代の批評家たちである。アメリカのニュークリティシズムや、フランスのヌーベル・ クリティック、またドイツの解釈グループ「詩学と解釈学」等々の批評の手つきが検証され、またビンスヴァンガー、ルカーチ、 ボードレール、マラルメ、ブランショ、プーレらにおける読解の方法論と結果との齟齬が明らかにされる。なかでもデリダのルソー論を論じた第Ⅶ章 は、それ以後の脱構築批評に多大な影響を与えたのみならず、『読むことのアレゴリー』や『美学イデオロギー』といったド・マンの後年の著作を方向づけてもいる。

物事を認識し解釈するさい、私たちは「読むこと」から逃れることができない。とはいえ、私たちは「読むこと」の複雑さにたいして盲目であることによってのみ、洞察を得ることができている。この盲目と洞察のメカニズム、こうした「読むこと」の複雑さにたいする洞察をこの著作は与えてくれるだろう。(木内久美子)