新刊紹介 | 編著/共著 | 『「戦後」日本映画論 一九五〇年代を読む』 |
---|
木下千花・土居伸彰・中村秀之(分担執筆)
ミツヨ・ワダ・マルシアーノ(編著)『「戦後」日本映画論 一九五〇年代を読む』
青弓社、2012年10月
本書は、2011年3月と7月の二回に亘って国際日本文化研究センターで開かれた戦後日本映画についての研究会の成果に基づいている。研究会を主催し、本書の編集も務めたミツヨ・ワダ・マルシアーノの腕力は凄い。本書は、美術や文学の領域でも近年見直し作業が進んでいる日本の「戦後」に着目し、映画文化にとっての意義を問うところから始まっている。しかし、戦前・戦中期との連続/非連続性などについて論集として一つの「史観」を表明することを目的としているわけではない。むしろ、1950年代に焦点を絞りつつ、カラー(冨田)やワイドスクリーン(ハン)のようなテクノロジーの導入、アニメーションの産業化(桑原)とオルタナティヴの形成(土居)、高度経済成長を文脈としたジャンルの興隆(ワダ・マルシアーノ、西村)や復興(谷川)、戦前のプロレタリア文芸の翻案(鳥羽)、「大衆文化論」としての映画論の展開(藤木)など、映画研究においてごく最近まで周縁的あるいは「面白くない」とみなされてきたトピックについて、丹念な歴史研究と言説分析が行われているのが本書の特色だ。溝口、黒澤、成瀬などいわゆる「作家」の作品のテクスト分析にあたっても、十二音技法の音楽(長門)、原水爆という「問題」との重層的な(無)関係(中村)、妊娠中絶(木下)と、これまで看過されてきた視点が取られている。(木下千花)
[↑ページの先頭へ]