新刊紹介 単著 『世界文学から/世界文学へ 文芸時評の塊1993-2011』

沼野充義
『世界文学から/世界文学へ 文芸時評の塊1993-2011』
作品社、2012年10月

本書は、ロシア・東欧文学の専門家として知られる著者が、1993年から2011年までの約20年間に、現代日本文学に関して執筆したテクスト(文芸時評および書評)をまとめている。この20年間は、大学から文学部が消えていった時期に当たっているのだが、それはグローバル資本主義による急激な画一化だけが原因ではなく、アカデミズムにおいて文学が国民文学として批判された「成果」でもあった。文学の内向き志向に対するその批判は、昨今の「グローバル人材」を求める企業の言葉遣いとよく似ており、結果的に、文学批判が率先してグローバル資本主義のお先棒を担いだ格好になったかのように見えてしまう。国民文学を再興しようとする文学的保守主義の誘惑に抗うのは困難な情勢だが(著者本人の真意はともかく、水村美苗の『日本語が亡びるとき』が盛んに読まれたのもひとつにはそのせいだろう)、それでは産湯と一緒に赤子を流す愚を犯すことになる。グローバル資本主義だけがグローバル化ではない。画一化に対して、多様性の全面的な開花としてのグローバル化が確かに存在し、前者は後者の一部、その特殊な形態にすぎない──沼野充義の「現場」である「世界文学」こそ、そのなによりの証にして、文学批判が明確に打ち出すことのできなかった「オルタナティヴ」なのである。(石橋正孝)