新刊紹介 単著 『ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴの映像学 イギリス映画と社会的リアリズムの系譜学』

佐藤元状
『ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴの映像学 イギリス映画と社会的リアリズムの系譜学』
ミネルヴァ書房、2012年10月

本書は「ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴ」と呼ばれる1960年代初頭の映画運動を対象とした本邦初の研究書である。ニュー・ウェイヴに先立つフリー・シネマ時代のドキュメンタリー作品に始まって、地方の労働者階級を描いたニュー・ウェイヴのリアリズム作品、よりスタイリッシュなスウィンギング・ロンドンの映画を経て、後期のメタフィクションへと至る構成は、ニュー・ウェイヴの作家たち(リンゼイ・アンダーソン、カレル・ライス、トニー・リチャードソン)の軌跡を明快な見取り図のなかに収めてくれる。しかし本書が試みるのは、そうした見取り図のなかで作品を歴史化することではなく、むしろ明快な腑分けを絶えずすり抜ける映画テクストの美学的かつ政治的な「豊穣さ」を浮かび上がらせようとすることであるだろう。著者はまず作品をめぐる言説(作り手の発言、批評、研究)を分析して、それらを構造化する二項対立的な論理を炙り出してみせる。主観/客観、フィクション/現実、現在/過去、美学/政治…。だが映画作品においてそれらを整然と区別することができるのだろうか、と著者は問いかける。そして相対立する二項が映画テクストという織物のなかにいかに織り込まれているかを模範的な手つきで分析してゆく(「対位法」、「コラージュ」、「弁証法」といった表現に注目しよう)。そこから浮かび上がる作品の「両義性」が二項対立を「内在的」な仕方で乗り越える契機となるのである。そうしたニュー・ウェイヴ再読のなかに、映画における風景表象や異化効果の問題、帝国映画、ヘリテージ映画といった論点を盛り込んだ本書はまた、イギリス映画研究の再読の試みでもあるだろう。(角井誠)