トピックス 3

「建築の際」刊行記念トークイベント

2015年11月15日(日)東京大学情報学環福武ホールにて、『建築の際』刊行記念イベントが開催された。このシンポジウムは吉見俊哉監修・南後由和編『建築の際―東京大学情報学環連続シンポジウムの記録』(平凡社、2015)の出版を記念して実施された。「建築の際」とは、2008年から2011年まで7回「建築家×異分野の専門家×情報学環の教員」の組み合わせで実施していた東京大学情報学環・学際情報学府主催の連続シンポジウムである。当日はゲストのみならず、「建築の際」OB・OG、現役の大学院生も交えて積極的な議論が行われた。

今回のイベントは2部による構成をとった。第1部では従来の形式を踏襲し、建築家として平田晃久氏(京都大学)、異分野の専門家として情報学者のドミニク・チェン氏(株式会社ディヴィデュアル)、情報学環の教員として佐倉統氏(情報学環長)をゲストに招き、「境界を横断すること」をテーマとした講演、書籍へのコメント、専門性と学際性の両立や文理越境の研究・教育等について討議がなされた。第2部では書籍の執筆者をコーディネーターとして、「建築の際」OB・OGを招き、卒業後の仕事や現役当時のエピソードが披露された。

第1部では、監修者である吉見俊哉(東京大学)、同連続シンポジウムの主催者である南後由和(明治大学)両氏による趣旨説明の後、各ゲストの講演となった。講演では、第6回「生命の際」との関連から、ゲスト各々の生命をめぐる「際からの思考」が展開されている。同連続シンポジウムを統括する観点から、吉見俊哉氏が対話装置としての「壁」について述べ、南後由和氏が「際」=「境界(border)」のとらえなおし、専門家と非専門家が協同する集団的制作、専門性と学際性をめぐるテーマを発議した。

これを受けて、平田氏は生命・非生命、人間・動物を境界づける「際」の一例として「からまりしろ」の観念を提示し、生命が階層的に段階を経ながらからまりつつ動的に変化していくプロセスを、建築設計にどのように反映していくかという問題提起を行った。続けて、ドミニク氏は、デジタル・アーキテクチャについての自身の仕事を紹介するなかで、「プロクロニズム」(グレゴリー・ベイトソン)を引用しながら、自己の発信する情報を、時間的なプロセスに従って形態化するプラットフォームの制作について議論した。最後に佐倉氏は、生命という情報系統を「形態」、「機能」、「行動」の三項関係にとらえる視点を提示し、建築を三者が相互規定する共進化の運動として把握した。そのうえで、同氏は、学際性や雑種性が学問的進化を生み出せないという、情報学環・学際情報学府という研究・教育組織が抱える問題にも触れている。

第2部では、「建築の際」OB・OGのゲストとして大西麻貴氏(建築家)、松岡康氏(広告代理店)、関博紀氏(東京都市大学)が、シンポジウムをコーディネートした経験をふまえて、自身の現在の仕事について解説した。その後の全体討議では、建築をめぐる専門性と学際性の両立可能性、集団的制作における作家性の問題、「建築」と「広告」の評価軸の相違といったトピックを、会場の現役生と共に幅広く議論した。

このトークイベントは「建築の際」連続シンポジウムの実質的な最終回として、2部構成をとる異例なシンポジウムであった。第1部は従来どおり「建築家×異分野の専門家×学際情報学府の教員」というモデルを反復し、第2部は「建築の際」OB・OGを中心に現役生との対話の時間をもうけ、協働する実践を下の世代へと受け継ぐことが目標であった。制作の現場のみならず、イベントの設営、研究室運営、町おこしや雑誌などの媒体づくりにいたるまで、人と人とをつなぐ「場」をプロデュースする行為は、今後もさまざまな場面で重要性を増していくはずである。「際」を通じたゆるやかな連帯を、創造的実践に結びつけること、そして、専門を追究しつつも、他分野・他領域と境を接する「際」の視点から、それまでの思考の枠組みに揺さぶりをかけること。「建築の際」連続シンポジウムが目指したのはそのような試みであり、今後も、情報学環・学際情報学府の枠組みを超えて変奏されていくことだろう。(難波阿丹)