新刊紹介 | 編著/共著 | 『連続講義 現代日本の四つの危機──哲学からの挑戦』 |
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宮﨑裕助ほか(分担執筆)
齋藤元紀(編)『連続講義 現代日本の四つの危機 哲学からの挑戦』
講談社、2015年8月
現代日本にあって人々が直面している危機とは何か。その危機を哲学はいかにして明らかにするのか。かつまた、それにどのように答えるのか。本書は、現代日本で活躍する12名の哲学者たちがこの問いにそれぞれ答えるかたちで行なわれた連続講義の記録である。
「現代日本の危機」を本書は「知」「ことば」「いのち」「戦争」の四つの焦点へと集約しつつ、次のようなテーマに即して展開している。すなわち、順に「啓蒙と近代化」(牧野英二)、「現代人の心と認知」(信原幸弘)、「哲学と大学制度」(西山雄二)、「哲学と対話の自由」(梶谷真司)、「民主主義と哲学カフェ」(小野原雅夫)、「『おくのほそ道』と日本の伝統文化」(魚住孝至)、「形而上学と存在」(齋藤慶典)、「世界の終わりと「世代」の問い」(森一郎)、「ハイデガーと「貧しさ」」(高田珠樹)、「サルトルとアンガジュマン」(澤田直)、「アウシュヴィッツと生き延びの生」(宮﨑裕助)、「アーレントと「はじまり」」(矢野久美子)である。
一見したところテーマは拡散しており、危機らしくないと感じる部分もあるかもしれない。しかしどのテーマにも共通しているのは、決して当の「危機」がジャーナリスティックな関心からとってつけたようなものではなく、各人の長年の哲学的営為から掘り起こされてきたものだという点である。このことは、既存の哲学から危機が導出されたというようなことでもない。ここに示されているのは、各人が哲学の伝統や古典と格闘してきたなかで、それでもやはり現代に生きる同時代人として切実に感ぜられた危機そのものでもあるのだ。したがって読者はこの講義録から、哲学的観点からした「現代日本の危機」を知識や情報として学ぶという以上に、口語体のライヴ形式を通じて身をもって察知し体感し共鳴すること、またそのようにして、各々のリズムで語り下ろされた「いま・ここ」にある現実の危機を思考するよう促されることになるのである。(宮﨑裕助)