新刊紹介 | 編著/共著 | 『建築の際 東京大学情報学環連続シンポジウムの記録』 |
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南後由和(編著)
田中純・難波阿丹(ほか分担執筆)
吉見俊哉(監修)『建築の際 東京大学情報学環連続シンポジウムの記録』
平凡社、2015年8月
本書は2008年から2011年まで、東京大学大学院情報学環・学際情報学府主催により、情報学環・福武ホールで計7回行われた連続シンポジウム<建築の際>の記録である。<建築の際>は、南後由和の主導によって、学際情報学府と建築学専攻の院生が分野を越えて対話をし、登壇者の選定からシンポジウムの企画・実施までを担当した、学生主体のプロジェクトである。同プロジェクトは、「アジア」、「振舞」、「形式」、「映像」、「生命」、「空間」、「知」といった多彩なトピックを題材に、建築家と異分野のゲストを招き、「建築」と「演劇」、「教育」、「映画」、「音楽」、「生物学」、「数学」等のジャンルが切り結ぶ境界領域において展開された。
「際」とは、ノヴァックの「transvergence」であれ、モラレスの「terrain vague」であれ、どの場にも包摂されない曖昧で空虚な空間でありながら、異質なものと相互作用しつつ、既存の秩序を書き換えるような運動性を孕んでいる。同書の各章を見ていくと、国家の境界、建築家とユーザーの関係性、モダンからポストモダンへの移行、映画のフレームの内外、生命の領域、幾何学と建築の空間認識のように、「際」として見いだされる設定も拡張され、それぞれの諸相から制度化しえないジャンルの流動性、可塑性のおぼろげな輪郭が立ち現れるという仕組みになっている。
同書からはじっさいの制作やシンポジウムの運営にともなう異分野協働のあり方についても示唆をえられるだろう。<建築の際>一連のシンポジウムとは、専門性を軸とする強固な繋がりではなく、一義的に規定できない柔らかな繋がりを軸に人との関係性を新たに編み上げつつ、自由な対話環境をつくりだす試みであった。個々の専門性を深めながら、学際的に協同した結果が、ジャンルの垣根を越えた共振と活性化をもたらす例として、この書籍はひとつの新しい指標となるはずである。(難波阿丹)