新刊紹介 | 編著/共著 | 『デジタル・スタディーズ 第2巻 メディア表象』 |
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門林岳史、草原真知子、研谷紀夫(ほか分担執筆)
谷島貫太、中路武士(分担執筆・分担翻訳)
石田英敬、吉見俊哉、マイク・フェザーストーン(編)
『デジタル・スタディーズ 第2巻 メディア表象』
東京大学出版局、2015年9月
デジタル・テクノロジーがもたらした新たな知の配置を真正面から受け止め、本質的な応答を返そうと試みる全三巻の野心的シリーズ『デジタル・スタディーズ』、その第二巻に冠された「メディア表象」という日本語は、ある曖昧さを伴っている。一方でこの言葉は、メディア上に展開される表象を指すものとして受け止めうる。さまざまな作品あるいはコンテンツと呼ばれるものがそれにあたる。他方で同時にこの言葉は、メディアそのものについての表象を指すものとして解釈する余地も残している。つまり、メディアというものをどう表象するのか。本書に収められた各論考は興味深いことに、そのどれもが、上に挙げた「メディア表象」という言葉の二つの可能な意味を同時に考察するものとなっている。そしてそのことには、おそらく本質的な必然性がある。
デジタル・テクノロジーは、あらゆる対象を01からなる数字列で記述する。そこには原理的にはメディアとコンテンツといった区別はなく、際限のない01の行列があるばかりだ。それゆえデジタルが提起する新たな表象をめぐる問いに真摯に向き合おうとする各論考はすべからく、メディアとコンテンツという区別の手前に見いだされる01の領分に向き合わざるを得なくなるのだ。表象をめぐる新たな問いが立ち上がるのは、その地点においてである。
本書全体を通じ、文字、映像、アーカイブ、メディア、接触、コミュニケーション、アート、アニメーション、宗教といった多岐に渡る論点をめぐって、デジタル・テクノロジーが要請する新たな知的パラダイムが、さまざまな角度から試され、鍛え上げられていく。この知的実験場は、デジタルをめぐる、そしてデジタルから出発する新たな人文学の知的挑戦にとっての、欠かすことのできない足場となっていくことだろう。(谷島貫太)