新刊紹介 | 編著/共著 | 『デジタル・スタディーズ 第1巻 メディア哲学』 |
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大橋完太郎、星野太、御園生涼子(ほか分担翻訳)
中路武士(対話コラム構成)
石田英敬、吉見俊哉、マイク・フェザーストーン(編)
『デジタル・スタディーズ 第1巻 メディア哲学』
東京大学出版会、2015年7月
2007年7月13日から16日にかけて、世界30ヶ国以上から600人を超えるメディア研究者が一堂に会し、100に及ぶ公募セッションから成る大規模な国際会議「ユビキタス・メディア──アジアからのパラダイム創成(Ubiquitous Media: Asian Transformations, UMAT)」が東京大学本郷キャンパスで開催された。この「新しいネットワーク型のデジタル情報社会に対応したメディア理論のパラダイム革新を世界に向けて宣言する国際会議」(UMATのパンフレットより)からすでに8年もの歳月が流れたが、その成果を纏めた論集のシリーズ「デジタル・スタディーズ」がようやく刊行された。本書『メディア哲学』はその第1巻にあたり、安田講堂で開催された3つのプレナリー・セッションにおいて、メディア・スタディーズを先導する理論家たちが発表した画期的論考を揃えたものである。
本書の構成は基本的に、このプレナリー・セッションの流れを保持している。第1部〈メディア・オントロジー〉では「映画の歴史的存在論」と「メディアの存在論」が力強く語られる(蓮實重彦×フリードリヒ・キットラー)。第2部〈形而下的/形而上的〉では「遠隔テクノロジーと目的論」および「視覚芸術と脳神経科学」をめぐる考察が説得的に展開される(ベルナール・スティグレール×バーバラ・マリア・スタフォード)。そして第3部〈ホモジェナイズド・メディア〉では「メディア技術の時間」、「メディア環境と人間」、「メディアの存立条件」がそれぞれ鋭く問われる(マーク・ハンセン×N・キャサリン・ヘイルズ×藤幡正樹+石田英敬)。さらに、この刺激的な議論の流れを再現するため、本書の各部には、それぞれの講演後に論者たちによって展開されたやりとりを構成した「対話コラム」が置かれており、それらは各論考の改題としても参考になるだろう。
国際会議UMATからは短くない時間が経過したものの、映画からメディアアートまで、WiMaxからRFIDまで、多元化し遍在化したデジタル・メディアに関する彼/彼女たちの認識論的・存在論的思考がそれぞれ提起した問いは、そのアクチュアリティをまったく失うことなく、むしろますます重要性を増しているように感じられる。これらの論考を出発点とする知の射程はきわめて広く、本書で描き出された知の見取り図──「知のデジタル転回」──は、会議後8年間にわたってこれまで展開されてきた国際的な研究動向にも強い影響を与えてきたと言えるし、これからのメディア・スタディーズにも大きく寄与していくはずである。
池田亮司の《detamatics [prototype-ver.2.0]》(audiovisual concert, 2006−08)の【イメージ】と、それを包み込む間村俊一の装丁にも注目しつつ、本シリーズを通して、人文学の新たな光景に立ち会っていただければと思う。(中路武士)