新刊紹介 翻訳 『ニンファ・モデルナ 包まれて落ちたものについて』

森元庸介(訳)
ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(著)
『ニンファ・モデルナ 包まれて落ちたものについて』
平凡社、2013年6月

フランスのイメージ研究を牽引する著者が、ニンファの失墜と残存というテーマのもと、西洋のイメージ史へ切り込んだ一冊。前後して刊行された大著『残存するイメージ』(邦訳:人文書院)と対を成して、アビ・ヴァールブルクの「方法」をみずから実践した試みでもある。ルネサンス絵画が出発点となるが、実質はモダニズム写真論と言えるだろう。モホイ=ナジ、アンドレ・ケルテス、ジェルメーヌ・クルル、さらにエリ・ロタールらがパリの街路、とりわけそこに散乱する襤褸布——けだしニンファの残存の徴という次第だ——へ向けた眼差し、そこから引き出した悲痛にして豪奢なイメージが追跡され、著者ならではの画面分析を堪能できる一冊である。といって特筆すべきはまた、文学作品への抱負な言及だ。ボードレール、ゾラ、さらにまたバタイユ、レリスの記述のヴィジュアルな魅力が浮かび上がり、とりわけユゴーが著者の筆致とよく共振している。著者にとってもひとつの転回点であったかもしれず、これ以降、絵画よりもむしろ写真や映画を論じた仕事が増えていった。小ぶりであるが、いろいろな読み方のできる本だと思う。(森元庸介)