新刊紹介 | 編著/共著 | 『ニコラス・レイ読本 We Can't Go Home Again』 |
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土田環(編)
『ニコラス・レイ読本 We Can't Go Home Again 』
boid、2013年6月
本書は、2013年6月に日本で公開を迎えた『We Can’t Go Home Again』のプログラム・ブックとして編纂された。トマス・ウルフの長編小説『汝再び故郷に帰れず』に着想を得て、タイトルの付されたニコラス・レイの遺作は、ヨーロッパにおける活動を経て帰米後、晩年に客員教授を務めたニューヨーク州立大学の学生たちとともに制作された。多様なフォーマットの混交、当事者たちによる出来事の再現形式など、「マルチイメージ・ショー」と名付けられた本作品は、ニコラス・レイの自伝的な側面を持つにとどまらず、アメリカ映画史の翳りを帯びた部分をも示すといえよう。すなわち、撮影所のなかで映画を撮り続けることのできなかったレイの挫折とは、1950年以降のアメリカ映画の衰退そのものであり、悔恨、不信、裏切りに苛まれ、最終的には病に蝕まれていく映画監督の身体は、1960年代から70年代にかけて、反戦運動や政治闘争に疲弊し、アルコールとドラッグに侵されて内向するアメリカ社会に他ならない。故郷喪失の人生と作品を通して、映画史の断層に光が照射される。ヨーロッパ放浪の末に、ウルフの小説の主人公は帰郷を果たす。その一方で、「ハリウッド」のもはや存在しないアメリカヘ帰還するレイの試みは、「教育者」として今日に何も残さなかったのだろうか。(土田環)
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